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13 魂の反撃!! 「バレッタ!クリスティン! お願い、私に力を貸して!!」 岩山の頂きにZiスコルピオンを構えるアンジーがいた。 先ほどの瞬きは、スコープが反射した光だった。 ここからは、アシュラのコックピットが丸見えだ! ターーーーーン!! 銃声が木霊する。 アシュラは、ハンマーパンチを振り下ろせなかった。 アシュラの目に当たる部分には、強化ガラスが填められており、そのガラスに 蜘蛛の巣のようなヒビが入っていた。 「う、うあああああああああ!! 血、血だと?人間を越え、ゾイドを越えた私が… ぐふう、くそ、くそくそくそ!! 私は、死なない! …ワタシハ、アシュラナノ、ダ…」 ヴィル少佐は息絶えた。 破壊の衝動は、彼の死をもってしか止められなかった。 “ウォッホ、ウォォォォォォォン!! A2が喜ぶように吼えた。彼もまた、ヴィル少佐から解放されたようだった。 「バレッタ、クリスティン… 敵は取ったよ!」 アンジーは、腕に結んだバレッタのリボンを空にかざした。 溢れる涙が、止まらなかった。 「アンジー、やったわね! これで、全てが終わったのね…」 タイガーリリーが安堵のため息をつく。 リュウガは、まだ目覚めない。 (もう、いい。 ゆっくり起きあがればいい。 もうリュウガの敵は去ったのだから) タイガーリリーの願いは脆くも崩れ去った!! 「フハ、フハハハハハハハハハハ!!」 ヴィル少佐は、死の淵から蘇った!! 金属細胞の増殖が臨界を突破し、ついにヴィル少佐は、ゾイドそのものに変貌して いった。 「あれは、バーサーカーシステムの…暴走!!」 タイガーリリーは見た。 驕った人間が生み出した科学の怪物を! (バーサーカーシステムが実用化しなかった理由。それは…) きわめて不安定な、Ziキャンサーはとても制御できるものではない。 有機体と金属細胞のバランスが崩れたが最後、 「最後には、金属生命体に人間が喰われてしまう!?」 タイガーリリーは、科学の慢心と暴走に憤りを感じていた。 「何が“伝承者”よ? 起こりうる悲劇を、食い止められないじゃない!!」 そこには、人間の理性など存在しなかった。 あるのはもっとも原始的な欲求、破壊の衝動のみだった!! 「破壊、ハカイ、ハカイイイイイイイイ!! 敵、テキ、テキイイイイイイイイイイ!! 殺ス、コロス、コロスウウウウウウウ!!」 “ウォッホ、ゴホホホ、オォォォォォン!!” A2の叫びは、遂に絶叫になった!! A2は、得体の知れない怪物に身体を支配されていた。 もう、A2の意思など関係ない。蹂躙された意識が、磨り潰されてゆく!! アシュラは、ゾイド喰らいを呼び集めると、今までにない大砂嵐を生み出した!! 「ダメだった、バレッタ、クリスティン…ダメだったよ」 アンジーは、うなだれた。その視界の先に、G2が写る。 今まさに、大砂嵐の中に消え去ろうとしていた。 「ダメだ。リュウガ、タイガーリリー!! 起きろ、そこから逃げるんだ!!」 インカム越しに怒鳴っても、何の応答もなかった。 「こちらに注意を引きつければ!!」 アンジーは、Ziスコルピオンに弾を装填し、アシュラに向かって立て続けに撃った。 コックピットに、胸板に、肩に、腰に、足に、当たる幸いに撃ちまくった。 アシュラにとって、もはや人間など取るに足らない存在だった。 だが、こう五月蠅くてはかなわない。 ハエでも払うがごとく、手を動かすとそこに電撃がほとばしった。 砂嵐の一部が反応し、エネルギーの弾がアンジーを襲う!! ドクン、ドクン… (何だ、この音?) リュウガの意識は、生死の境をさまよっていた。 ドクン、ドクン、ドクン… (そうか、鼓動か。俺のか?) 自分のではない、外から聞こえる。 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン… (タイガーリリーか? ちがう、この“感じ”遙か昔にどこかで…) ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン… 誰かの声が聞こえる。とても懐かしい声だ。 「これは、ゾイドの鼓動だ。 …いつか、おまえがゾイド乗りになったのなら」 (知っている!俺はこの人を知っている!!) 「この音が聞こえてる限り、おまえは決して負けはしない!」 (まだ、聞こえる!まだ消えてない! そうだ、この音は!! …ゴジュラス!!) “グオォォォォォォォォォォォォン!!!” 力強い雄叫びが答える!! (ゴジュラス! ゴジュラス!! ゴジュラス・グラディエーター!!!!!) “グオォォォォォォォォォォォォン!!!” 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 リュウガは、G2は再び立ち上がった!!! リュウガの視界には、アシュラからアンジーに向かって、エネルギー弾が放たれた 瞬間が写った。 身体が反応する。いや、考える必要など無かった。 G2はためらうことなく、パイルバンカーを射出した! パイルバンカーは、エネルギー弾をギリギリのところで粉砕した。 アンジーは、見た。 ゴジュラス・グラディエーターのその雄志を!! ボロボロに傷ついていたが、その双眸には不屈の闘志が燃えていた!! ハンディシールドもない、パイルバンカーもない。 大口径ビームキャノンも失った。 だが、ゴジュラス・グラディエーターには、 ハイパーバイトファングもクラッシャークローもある!! 「そうだ、俺たちは…“俺は”まだ戦える!!」 「破壊、ハカイ、ハカイイイイイイイイ!! 敵、テキ、テキイイイイイイイイイイ!! 殺ス、コロス、コロスウウウウウウウ!!」 その叫びに答えるように、大砂嵐が吹き荒れる!! ゴジュラス・グラディエーターは迷わず、その中へ歩みを進めた。 アンジーが叫ぶ! 「ダメだ、行っちゃダメだ!! ゾイド喰らいの中じゃ、ゴジュラス・グラディエーターでも死んじゃう!!」 ゴジュラス・グラディエーターは、大砂嵐の中に消えた。 アンジーはぺたんと、そこにへたり込んだ。 ゾイド喰らいが、ゴジュラス・グラディエーターに襲いかかる。 体中全身に、その牙をむき出す。 「無駄だ!今の“俺には”そんな牙など通用しない!!道を開けろお!!」 ゴジュラス・グラディエーターのハイパーバイトファングに電流が走った!! “ゴジュラスが、炎を吐いた!!” 外から見た者がいたのなら、きっとそう答えただろう。 その光景を見たのは、哀れなアシュラただ一人だった。 聖なる業火に身を焦がされ、アシュラは無様にのたうち回った。 全てのゾイド喰らいは、ゴジュラス・グラディエーターにより炎にされた。 いま、アシュラを庇う物は、何一つ無かった。 「アヅイ、アヅイ、アヂイイイイイイイイ!?」 「こんなモンじゃ、済まさないぜ!!」 ゴジュラス・グラディエーターが一気に間合いを詰めた!! “ウォッホ、ゴホホホ、オォォォォォン!!” 「アイアンコング、許せ!! お前を救う道は、これしかねえ!!」 リュウガが、涙をためた目でA2に吼える!! (もう、A2を救うことは出来ない。ならば、せめてこの手で…!) 「これは、マキシミリアン中佐の分!!」 クラッシャークローがアシュラの腹に炸裂する!! 腹部の装甲が、砕け中身を飛び散らせた。 アシュラが4本の腕で、反撃をする。 先ほどまでは見えなかったこの攻撃も、今では何の驚異でもなかった!! 「これは、バレッタ、クリスティンの分!!」 背中のかぎ爪を、クラッシャークローで引きちぎる。 青黒い体液が迸った!! 「共和国軍と帝国軍のみんなの分!!!」 クロー、しっぽ、牙の乱れ撃ち!! 深紅の装甲が、みるみる失われていった!! アシュラの右ハンマーパンチがうなる!! 「これが、アンジーの分!!」 クラッシャークローが、ハンマーパンチを受け止め、そのまま握りつぶした!! 岩場の頂の上で、アンジーは泣いていた。 (ああ、あそこにみんながいる!! みんなの思いが、ゴジュラス・グラディエーターに集まっている!!) アンジーは胸の奥のつかえが溶けてゆくのを感じた。 「そして、タイガーリリーの分!!」 左の腕を、ハイパーバイトファングで噛みちぎった!! コックピットの中で、タイガーリリーが目覚めた。 「リュウガ?まさか、あなたも…」 バーサーカーシステムは、最後はその主をも飲み込んでしまう禁断の技術。 今のまま戦い続ければ、いつかリュウガも… だが、タイガーリリーはそんな心配がないことに気がついた。 (ああ、この感じ。初めてあったあのときと同じ。 不器用で、裏表がない、まっすぐな…大好きなリュウガだ!!) アシュラは、既に原型を留めていなかった。 体液とはみ出した組織が不気味にうごめいていた。 蒼い肉塊のように、いやらしく、そこにそそり立っていた。 「これが、“俺の”分だあぁぁぁぁぁ!!!」 “グオォォォォォォォォォォォぉぉ!!!!” ハイパーバイトファングが、腹部に齧り付くと、そのまま一気に噛み砕いた!! アシュラのゾイドコアが砕け散り、遂にアシュラは倒された!! アシュラの残骸は急速に石化し、たちまち崩れ去っていった。 「終わった…!」 リュウガは、大きく深呼吸をした。そこに隙が生まれた!! 「ギャハハハッハハッハハハハハ!!」 アシュラのコックピットが弾け、銀色の固まりが飛び出す!! ヴィル少佐のなれの果てだ! 「俺ノ身体、俺ノ身体ア!!! ソノ身体、ヨコセェェェェェ!!!」 (G2に取り憑こうと言うのか?) ものすごい勢いで、ヴィル少佐が迫る!! (逃げられねえ!?) リュウガは覚悟を決めた! 手に手榴弾を持ち、キャノピーを開ける。 (お前だけは、差し違えても俺が!!) リュウガがヴィル少佐に飛びつこうとしたとき! 石化したアイアンコングの“手”がヴィル少佐を捕らえた!! G2が噛み砕いた、左腕だ。 まるで意思があるかのように動き、ヴィル少佐を握りつぶした!! 「ギョィィィェェェェェェェェェェ!?」 そのまま、アイアンコングの腕は動かなくなり、砂漠の砂に返っていった。 「…アイアンコング」 リュウガは、誇り高きゾイドに対し敬礼をした。 アイアンコングは、ゾイドとして生き物としての尊厳を守ったのかも知れない。 砂嵐を操った、悪魔は砂と共に去ったのだ。 |