12 決戦! G vs A


 聖なる砂漠に、灼熱の太陽が容赦なく照りつける!
 G2は、北のある地点を目指して、ひたすら走っていた。
 そこには、A2に対抗しうる絶好の地形があった。
 惑星Ziの地殻変動は今だ活発で、巨大な断層が幾重も大地に刻まれていた。
 そう、巨大な峡谷を築いた場所も存在したのだ。
 
 リュウガ達は、A2をおびき寄せるため、共和国宛でダミーの通信を流した。
 「北の峡谷、“デスバレー”で、“予定通り”回収を待つ」
 初めは暗号化しようと、リュウガが提案した。
 だがその意見は、アンジーに止められてしまった。
 アンジーの話では「共和国の暗号は、子供の言葉遊びの域を出ていない」そうだ。
 さらに言うなら、「シロウトの暗号は時として、よけいな誤解を生みかねない」と
念を押されてしまった。
 ならば小細工は不要だ。
 G2は、谷の中で静かに待ち続けた。
 後部座席にはタイガーリリーが乗り込み、リュウガのアシストを買って出た。
 リュウガは、「男の戦いだから遠慮しろ」とか「君が傷つくのを見たくない」とか、
とにかくG2のコックピットから追い出そうとした。
 タイガーリリーは「ここが、世界で一番安全な場所だから」と言い切った。
 もうリュウガに勝ち目はなかった。
 (女に、口で勝とうと思った俺がバカだった)
 リュウガは、タイガーリリーの覚悟を知っていた。
 こうなることはリュウガも、分かっていたのかも知れない。
 アンジーは、対ゾイドライフルZiスコルピオンを手に取り、デスバレーの要所に
潜んだ。
 「貴方が、切り札になるかも知れないわ」
 タイガーリリーは、そう言ってアンジーにZiスコルピオンを託した。
 「どうしてそこまで?」
 アンジーは、タイガーリリーが自分を信頼してくれる訳が分からなかった。
 「貴方はまっすぐすぎる。そこが欠点でもあり、長所でもある。
  逃げることを止めた貴方なら、必ずあたし達に力を貸してくれるはずだから。
  あたし達は、未来を勝ち取るために戦っている。
  貴方も、気持ちは同じはずでしょ?」
 これがタイガーリリーの答えだった。
 アンジーは胸のポケットから、昔の写真を取り出した。
 アンジーとバレッタとクリスティンが、みんなが笑っている写真だ。
 (この笑顔を、私は守れなかった!)
 アンジーは、写真をポケットにしまうと、にじんだ涙を拭き、空を見上げた。
 どこまでも蒼い空が広がっていた。
 (きっと本国の空もこのように蒼いのだろう)
 懐かしいガイロス帝国。今はもう帰れない祖国。
 昨日の敵は、今日の盟友。昨日の上司は、今日の仇敵だった。
 今のアンジーに残された使命。
 “バレッタやクリスティンに貰った命を大事に守ること”
 (そのために、私は戦う!!)
 アンジーの目に、もはや迷いはなかった。
 
 青い空を、砂嵐が覆い始めた。
 「来たか?!」
 「まって、いまZiセンサーで調べてみる!」
 “ルルルォォォォ、グオォォォォォォォン”
 G2の雄叫びがデスバレーに木霊した。
 「間違いねえ、奴だ!深紅のアイアンコングだ!!」
 リュウガもG2も、その気配を敏感に察知していた。
 黒く身体にまとわりつく、きわめて粘性の高い氣のようなものを、リュウガ達は肌で
感じ取っていたのだ。
 どこまでも純粋な殺戮を欲する欲望。
 それがA2の氣の正体だった。
 
 砂嵐の密度が濃くなってゆく。紅いシミが砂嵐の中に浮かび上がった。
 深紅のアイアンコングに間違いはないだろう。
 その方角から、声が聞こえてきた。
 アンジーのかつての上司、ヴィル少佐だ。
 「くくく、罠を張ったつもりらしいが?
  A2の性能は、貴様ら想像が及ぶ以上のモノだ!
  ぜひ、絶望する様を見せて欲しい。
  さあ、せいぜいこの私を楽しませてくれ!!」
 ハンター捨て身の攻撃でも、A2を止めるに至らなかった。
 岩場の影でアンジーが悔しげに唇を噛んだ。 
 「ああ、俺も楽しみにしていたんだ!!
  貴様みてえな、大バカ野郎をぶん殴れる、この日をなあ!!」
 リュウガも負けずに吼えた。
 「リュウガ!!」
 「分かってる!!」
 タイガーリリーの合図で、リュウガは砲撃を開始した。
 G2の背中に装備された大口径ビームキャノンと両足の地対地ミサイルポッドが一斉に
火を噴いた!!
 A2は身じろぎもしない。胸を叩くドラムロールを続けている。
 竜巻が濃くなり、ビームは砂によって拡散、又はエネルギーフィールドとなった
ゾイド喰らいに阻まれた。
 ミサイルに至っては、熱源を分散されたお陰で、追尾が出来る状態ではなかった。
 「やっぱりか…効いてねえぞ!」
 「ビームキャノンをうち続けて!!」
 タイガーリリーに言われるまま、ビームキャノンをうち続けた。
 「無駄だ!」
 ドラムロールが激しくなる!砂がより多く集まってくる!
 エネルギーフィールドはさらに厚くなり、ビームを完全に遮断した!
 「今よ、リュウガ!!」
 「おう!!」
 今度はG2を転身させ、そのまま谷の中へと走り出していった。
 「ふん、万策尽きて逃げ出したか?」
 A2が追跡を開始した。
 「走りながら撃てる?」
 「ああ、任せろ!!」
 G2の尻尾の付け根には、連装対空ビーム砲が装備されていた。
 後方に向いているため、逃走しながらでも撃つことが出来た。
 「はははっ、さっきの大型ビームが効かないことを忘れたのか?」
 A2は砂嵐と共に移動が可能だった。全てのビームが弾きかえされる。
 A2は走行中、ドラムロールこそ出来ないがその必要もなかった。
 移動中はG2も強力な砲撃は出来ない。
 一度発生したエネルギーフィールドは強固にA2を守り続けた。
 それが、タイガーリリーの狙いだった!
 
 G2は峡谷の狭い場所に、A2を誘い込んだ。
 移動は困難だが、通れない広さではない。
 しかし、エネルギーフィールドの殻をまとったA2は身動きが取れなくなっていた。
 「リュウガ、上の岩!!」
 「よっしゃあ!!」
 G2は大口径ビームキャノンで、がけの上の大岩をうち崩した!
 A2に、雨霰と岩が降り注ぐ!!
 「いくら強固なエネルギーフィールドでも、
  この質量をとどめるだけの力場は無いわ!!」
 A2の頭上のエネルギーフィールドが、徐々にひび割れていく!
 タイガーリリーの読みどおりだった。
 岩の質量にしてみれば、エネルギーの殻など卵の殻に等しかった。
 「くっ、味なマネを!!」 
 ヴィル少佐は、悔しげに呟いた。
 エネルギーフィールド全体にヒビが入り、今にも崩れ落ちそうだった。
 「後は任せたわよ!!」
 「任せとけ!!」
 リュウガが、スロットルを全開にした!!
 マグネッサードライブが、圧倒的な加速力を生み出す!!
 「だっしゃあ!!!」
 ハンディシールドの一撃が、エネルギーフィールドをついにうち砕いた!!
 A2の頭上の岩が、自然落下を始める。
 「もらったあ!!」
 G2はそのままパイルバンカーの射程距離まで飛び込んだ!!
 この状態で頭を庇わなければ、まず間違いなく頭部のコックピットは破壊される。
 さらに、片手だけではG2の攻撃を捌ききれない!
 全て、タイガーリリーの計算どおりだった。
 「喰らえ、パイルバンカー!!」
 “ウオッホ、ホッホォ!”
 A2の苦しげな叫び声、リュウガはその声に反応する。
 ほんの少しだけ攻撃を躊躇してしまった。
 炸薬が、重合金の槍を打ち出す。
 鋭利な切っ先はA2の装甲を紙切れのように貫くだろう。
 リュウガの勝利は、決まった様に見えた。
 だが、ヴィル少佐も負けてはいなかった!
 「ふん、甘いわあ!!」
 A2は“両手”でパイルバンカーを防いだ。
 太い腕を2本貫通し、胸板に届く寸前でパイルバンカーは停止した。
 「くそ、届かなかった!」
 「リュウガ…」
 (あのまま、攻撃していれば、あるいは…)
 タイガーリリーは、リュウガの気持ちを察していた。だからそれ以上言えなかった。
 
 今度は頭上の岩が、A2降り注ぐ!
 A2の背中から、何かが飛び出した?!
 それぞれ3本の爪を持った2本の腕が、背中から飛び出し、頭上の岩を粉砕して
いった!!
 A2のコックピットは無傷だった。
 リュウガ達の作戦はA2の型破りな性能の前にうち砕かれてしまった!!
 「腕が、4本あるのか?!」
 「そうだ、アイアンコング・アシュラ。それがこの機体の名前だ!!」
 「…破壊の神!!」
 タイガーリリーは、地球の本で見たことがあった。
 破壊と混沌、そして浄化を司る。インド神話の大神だ。
 「ゴジュラス・ジ・オーガは、アシュラの性能の前に屈した!
  “人機一体”の私の前に、敵はない!!」
 「なんですって?」
 ヴィル少佐の言葉に、タイガーリリーはあることを思いだした。
 「うるせえ、格闘戦ならこのグラディエーターの方が上だあ!!」
 リュウガが、格闘戦を仕掛けた。
 「まさか、あのシステムが…下がってリュウガ!!」
 タイガーリリーの声も、リュウガには届かない。
 ハンディシールド、パイルバンカー、ハイパーバイトファングを総動員した。
 これらを全て一度に扱うことが出来るのも、リュウガの並はずれた操縦テクニックの
お陰だ。
 だが、ヴィル少佐は軽々と“3本”の腕でその攻撃を受け流してゆく。
 「コックピットが、がら空きだぞ?ゴジュラス!」
 “4本目”がG2のコックピットに振り下ろされる!!
 「ちいっ!!」
 リュウガはフットペダルを操作し、上体を沈ませ間一髪で回避する。
 すかさず、大口径ビームキャノンを打ち込み、間合いを取った。
 「くそ、思ったよりやるじゃねえか?」
 「リュウガ、お願い!あいつ普通じゃないの!!
  まともに戦って勝てる相手じゃないわ!!」
 タイガーリリーの声にカッとなるリュウガ。
 「なんだと?!俺じゃ相手にならないってのか?!」
 「お喋りは、後にしたまえ!!」
 アシュラは、まるで違う生き物のように4本の腕を巧みに操り、G2を徐々に
追いつめていった。
 「何故だ、どうして人間にこんな動きが?!
  これじゃまるで…」
 「ふふ、Ziキャンサーは何も君だけが煩っている訳じゃない」
 ヴィル少佐の口から意外な言葉が飛び出した。
 Ziキャンサー。金属細胞のガン。
 ゾイドの力を手に入れる諸刃の剣。
 リュウガの強さの秘密はそこにあった。
 半ゾイドの肉体は、インターフェイス無しにゾイドの意識と同調することが出来た。
 ゾイドの全ての感覚を共有することで、リュウガはよりゾイドと深く接することが
出来た。
 五感はもとより、センサー等の超感覚。
 直感によるサイトの修正。
 負傷による苦痛さえも、リュウガは共有した。
 ゾイドが好きだから。ゾイドを守りたいから。
 その強い思いが、リュウガに力を与えていたのだ。
 だから、同じ力をヴィル少佐に使われていることに、無性に腹が立った。
 「ふふ、むろん君のような仲良しごっこじゃないよ?
  私は、Ziキャンサーの脳腫瘍があってねえ。
  もう、余命幾ばくもないんだよ?
  悔しかったさ、悲しかったさ。
  そして何より憎かったのは、同じ金属細胞を持ちながら、
  無敵の肉体を持つ“ゾイド”の存在だ!!」
 「何だと?」
 「そうだ、私が欲しかったのは、何者にも負けない“力”!!」
 “ウゴォォォォォォォ!!”
 A2が苦しげに吼えた。
 「アイアンコング、泣いているのか?」
 リュウガにはそう聞こえた。A2が泣いている。
 同時に、アシュラの猛攻が始まった。
 感傷に浸ってはいられない。奴は敵なのだ!
 もう、ハンディシールドではかわしきれない!
 上下左右、ありとあらゆる方向から、攻撃が飛んできた!
 「ゾイドを従え、何者にも負けない“無敵の力”を、私はついに手に入れた!!」
 「…バーサーカーシステム!帝国は悪魔のシステムを完成させたというの?!」
 タイガーリリーはうわずった声で呟く。
 
 “バーサーカーシステム”
 人為的にZiキャンサーを操作し、ゾイドのインターフェイスを強化した技術。
 これにより、戦闘に必要な情報を“強制的”にゾイドに送り込むことが可能となった。
 そう、ゾイドの意思などもはや邪魔なだけだ!!
 これを搭載されたゾイドは、人間で言えば“廃人”同然まで追いつめられることになる。
 戦うだけの殺戮マシーン、帝国が求めたゾイドの姿の一つ。
 その姿から、“バーサーカーシステム”の名前が付いたのだという。
 
 「そうだ!私は人間を越えた!
  ゾイドすら私にひざまずく!!
  私は、アシュラ!!惑星Ziのアシュラとなったのだ!!!」
 “ゴゥオォォォォォォォォォォォ!!”
 (A2の慟哭が、聞こえる!!)
 リュウガは、A2の哀しみを知った。
 A2は恐れている。自分が途方もなく恐ろしい存在になることを!
 A2は知っている。自分の主が最終的には自分を滅ぼすことになることを!
 A2は嘆いている。もはや、自分ではどうすることも出来ない運命を!
 
 アシュラの猛攻が続く!!
 ハンディシールドにヒビが入る。
 (まさか、荷電粒子砲に耐えたマッドサンダーの装甲が、こうもたやすく?!)
 ついにハンディシールドが砕け散った。もはや、G2を守る物は何もなかった。
 アシュラの手足は、執拗にG2を追い込んでいった。
 ハンマーパンチが、かぎ爪が、G2の装甲と体力を削り取ってゆく!
 (立っているのが、やっとだ…)
 腹に重い一撃が入る
 “グギャォォォォウ!!”
 「ぐふう!!」
 G2がダメージを受けると同時に、リュウガの身体が大きく揺れた。
 「リュウガ?どうしたの?!」
 「な、なんでもねえ!!」
 リュウガは肩で息をしていた。
 まるで、ダメージを受けているのが、リュウガのようだ。
 (まさか?)
 タイガーリリーは、リュウガの身体に無数の傷が刻まれていることに気づいた。
 (逆流同調現象!!
  G2とのシンクロ率が、ここまで高かったなんて?!
  このままじゃ、リュウガが死んじゃう!!)
 タイガーリリーは、後足の地対地ミサイルポッドを発射した。
 ミサイルは、虚を突かれたアシュラに命中する。
 その隙に、タイガーリリーは、スロットルを操作して、G2をこの場から逃げさせた。
 「タイガーリリー!」
 「ごめん、リュウガ!いくらでも謝るから、今は私の言うとおりにして?」
 「逃がしはせぬ!!」
 アシュラも、マニューバスラスターを全開にさせ、G2に迫ってくる!
 「喰らえ!!」
 4本の腕が、エネルギボールを繰り出した!!
 狙い違わず、G2の背中に命中した!!
 “ギュォォォォォウ!?”
 「うおおおおおっ!?」
 G2とリュウガが、同時に悲鳴を上げる。
 「G2、被害報告!
  背部装甲ダメージ、コンディションオレンジ!
  大口径ビームキャノン、大破!
  ラジエータフィン、機能停止!  
  どうしたの?…機体温度が上昇している、オーバーヒートだわ!!」
 度重なる攻撃で、代謝機能が破壊され、さらにラジエータフィンを失ったことにより、
G2の機体温度は急激に上昇を始めた。
 「スピードが出ない!?
  お願い、あと少し!あと少しだけ頑張って!!」
 ノロノロとしたスピードのG2に、アシュラが追いついた!
 「鬼ごっこは終わりだ!!
  そろそろ、あの世に行くといい。
  お前の仲間が、待っているぞ!!」
 渾身のハンマーパンチが、G2を吹き飛ばした!!
 G2は峡谷の壁にぶつかり、ボロ雑巾の様に地面に崩れ落ちた。
 アシュラは、獲物にトドメを刺すべくその歩みを進めた。
 「ほう?これはいい」
 G2が放り込まれた先は、峡谷の行き止まりだった。
 そこは、直径200mのクレーターのような場所だった。
 「コロシアムか…そのゴジュラス、グラディエーターとか言っていたな?」
 G2の前に立つアシュラ。
 「本望だろう?
  闘技場での死は、剣闘士のもう一つの晴れ舞台だからなあ!!」
 G2は動かない。もう、立ち上がることも出来ないのか?!
 「楽しかったよ?でも、さよならだ!」
 ハンマーパンチが振り下ろされる!
 その時、岩山の頂きが光を瞬かせた。


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