10 シュトルムウントドラング


 「リュウガ…逃げろ、G2を守ってくれ!!」
 「マキシミリアン中佐!!」
 それっきり通信が途絶えてしまった。
 リュウガはコンソールに拳を叩きつけた。
 「畜生…マキシミリアン中佐、ようやくG2が起動したってのに…」
 「リュウガ、どうするの?」
 リュウガの性格は良く知っている。
 (ここでリュウガが戦うと言えば、あたしはついて行くだけだ)
 タイガーリリーの腹は決まっていた。
 
 「そんな、友軍機まで巻き込むなんて…」
 アンジーとバレッタは、ヴィル少佐の行動が理解できなかった。
 (狂ってる!!)
 そうだ、正気の沙汰ではない。
 「あんなヤツに、あんなヤツのために!!」
 アンジーは、自分のハンターに乗り込むとシステムを立ち上げる。
 かろうじてまだ動く、と言った所か。
 リュウガは、無駄な殺生はしないと言っていた。その言葉に嘘はなかった。
 「アンジー、あんたまさか!?」
 「クリスティンは、私達は、あんなヤツに利用されたんだ!!」
 悔しかった。信じていただけに、その怒りは収まらない。
 
 「タイガーリリー…ここから、脱出する!」
 リュウガの決定は、意外なモノだった。
 敵前逃亡するというのだ。タイガーリリーは耳を疑った。
 「本気なの?!それで良いの?!」
 「良い訳が、あるかよ!!」
 リュウガの言葉には怒気が含まれていた。タイガーリリーはびくっと身を千々込ませた。
 「俺は、傭兵だ…。
  依頼主の命令は、絶対だ!」
 絞り出すように、リュウガが言った。
 
 「待って、アンジー!!
 その機体じゃ無理よ!!
 無駄死にだわ、落ち着いて!!」
 必死になだめるバレッタ。アンジーは聞かない。
 「可哀想なクリスティン…私にもっと力があれば、あの子も死ななくて済んだ!!」
 バレッタはハンターのコンソールをのぞき込み、ぎょっとした。
 「…自爆コマンド!アンジーまさか、貴方…」
 「もう、誰が死ぬのも、見たくはないの…」
 うつろな目で、アンジーが答える。
 「少佐と、差し違えるつもりね…」
 「止めても無駄よ?バレッタ、貴方だけでも生きて…うっ?」
 アンジーの後頭部に、バレッタの手刀がたたき込まれた。
 「ごめん、アンジー。
  でもね、その役…私が代わるね」
 
 「リュウガと言ったわね。
  私が時間を稼ぐから、ここから脱出して!!」
 バレッタが、リュウガに話しかけた。
 「どういう事だ?もう俺たちが争う必要はないんだ、一緒に脱出すればいい!」
 「ヴィル少佐は、そんなに甘い方ではないわ…それに」
 バレッタが腹を押さえ呻く。床に紅い雫が滴る。
 「リュウガ、あの人怪我してる!!」
 タイガーリリーがバレッタの様子に気がついた。
 「もう、私は長くはない。
  どうせ死ぬなら、アンジーを助けたいの!
  リュウガ、お願い。アンジーを連れて逃げて!」
 リュウガはバレッタに無言で頷くと、G2を伏せの姿勢にした。
 下に降り立ったリュウガは、アンジーを抱きかかえると、G2のコックピットに
運んでいった。
 「ありがとう、リュウガ。恩に着るわ」
 「恩に着るのは、俺の方だ」
 憮然としたまま、リュウガが答えた。
 バレッタは、アンジーの右手首に髪を束ねていたリボンを結んだ。
 それが、別れの挨拶になった。
 
 外部ハッチを開くと、そこは砂嵐のまっただ中だった。
 「ゾイド喰らいか?!」
 マッドサンダーの残骸で出会ったときより、勢いも強く、規模の大きいモノだった。
 G2はその身にへばりつく、砂の不快感にうめき声を上げた。
 「タイガーリリー、G2は大丈夫なのか?」
 「G2の代謝能力は並のゾイドより高いわ。短時間なら、問題なく行動できるわ」
 リュウガはタイガーリリーの言葉を信じ、砂嵐の中へG2を走らせた。
 「ハンター、ゴメンね。
  あんたのご主人を助けるために、力を貸して!」
 “キェェェェン”
 健気にも、ハンターはバレッタの願いに答えようとしているようだった。
 砂嵐の中にハンターも走り出していった。
 
 「ふん、砂嵐に紛れて逃れようと言うのか?
  小賢しい!
  その大きなゾイドコアを抱えている限り、ゾイド喰らいから逃れる術はない!!」
 A2のセンサーが、フル回転する。
 大きなゾイドコア反応を見つけだすのにさほど時間を要しなかった。
 「そこか、そこにいるのか?」
 A2は右手に砂をひとつかみ取ると、掌の中に電流をほとばしらせた。
 砂はゾイド喰らいの固まりだ。
 ナノサイズのゾイドの集合体であるこの砂に、許容範囲を越えたエネルギーを注入した
場合、ゾイド喰らいが弾け、エネルギーフィールドを形成する。
 これは現状で開発されているE−シールドと同じモノで、余分なエネルギーを
シャットアウトし、他のゾイド喰らいに影響が出ないようにしているためであった。
 この性質を利用し、A2は2度も砲撃の中を生き抜いたのだった。
 手の中で、エネルギーフィールドが発生し始めた。
 A2は、そのエネルギーを固まりにして、ボールの様に力任せにぶん投げた!
 
 「後方より熱源!ビームか?回避できない!!」
 G2の背中に衝撃が走った!!
 「きゃああああああ!!」
 「ぐっ、ビームのクセになんて衝撃だ?ショックカノンにしては、威力がでかすぎる!」
 タイガーリリーがすかさず検索に入る。
 アンジーを乗せているため座席は狭かったが、作業を妨げるほどではない。
 「分かったわ、敵はE−シールドを何らかの形で射出しているの。
  このビームボール、質量があるわ!!
  つまり、砂嵐程度じゃ拡散しないの!!」
 2発目が着弾する。
 「くそ、奴め!こんな裏技もってやがったのか?!」
 「どうするの?このままじゃ、G2の装甲でも保たないわ!」
 
 「ふん、しぶといな?
  これほど燻りだしても、まだ反抗しないのか?
  これはとんだ腰抜けのようだな?」
 興がそがれたように、ヴィル少佐が言う。
 「もう少し、楽しめると思ったが…残念だ」
 さらなるエネルギーボールを作り上げた、その時だ。
 「うん?こちらにゾイドが向かってくる?!
  ふふん、丁度良い。
  退屈凌ぎには、なるか?」
 ゾイドコア反応は、かなり大きな数値を出していた。
 「ほう?まだこのような大型ゾイドがいたとはな?
  せっかくの獲物だ。
  ゴジュラス・ジ・オーガの様に、この手で始末してやる!」
 それが、ヴィル少佐の失敗だった。
 視界に飛び込んできたのは、傷つき今にも死にそうなハンターだった!!
 「ヴィル少佐!地獄まで付き合って貰うよ?」
 バレッタの捨て身の攻撃が、いまA2に炸裂した!
 ハンターのレーザークローが、アイアンコングの胸部の装甲に食い込む!
 「クソ、死に損ないがあ!!」
 A2がハンターをもぎ取ろうとするが、ハンターは離れない。
 「バイバイ、アンジー…」
 すかさずバレッタが、自爆キーを入れる。
 2体のゾイドが、閃光の中に消えていった。


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