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7 覚醒!! 帝国軍が誇る移動基地ホエールキングには1個中隊、ゾイドにして約30機が 納められていた。 それらを一斉に降下させ、ホワイトファング基地へ進行を開始していた。 ヴィル少佐は専用カスタムゾイド、アイアンコング“A2”に乗り込んでいた。 アイアンコングとは、ゴジュラスと戦うために生まれた機体である。 その名の通り、その姿は鋼鉄の身体をもつ霊長類。 その大きさからは想像も出来ない、高い機動性を秘めていた。 “A2”はさらにマニューバースラスターによって機動性を高め、余分な装備を外し、 格闘戦のみ特化させた機体だった。 まるで“G2”と戦うために生まれてきたような機体だった。 「この程度の基地に、ゾイド30機は大げさかもしれん…」 既に前線は、攻撃を開始していた。 各個撃破と指令を出してある。予定どおりだ。 (これでいい。早く“G2”を燻りだしてくれ!!) ヴィル少佐の胸中は、未知なる強敵との出会いに高鳴っていた。 彼は戦争が大好きだった。 狂った時代が生み出した、狂人なのだろうか? “ゴッホゴッホ、ホウホウホウ…” A2の叫びは、まるで泣いているような悲しさがあった。 帝国の誇る新型ゾイド“ハンター” アヌビスヒヒ型のそのフォルムは、異形の魔獣の様であった。 驚異的な跳躍力、俊敏性、機動性に富む機体で、特に奇襲を得意としていた。 アンジー達3人は、前線の攻撃開始と同時に行動に移った。 自然を利用したホワイトファング基地。 天然の要害たる、切り立った崖があらゆるゾイドの進行を阻んでいた。 迷わず、ハンターをその崖に向かわせる。 レーザークローが岩肌を捉え、強力な四肢が生み出す瞬発力で軽々と登坂してゆく。 「きゃあ!?」 クリスティンのハンターが脆い岩肌を掴んでしまったようだ。 バランスを崩しそうになる。 すでに、引き返すことが出来ないほど高く昇ってしまった。 どんなゾイドでも、落ちればただでは済まないだろう。 「クリスティン?! しっかり、跳ぶのよ!!」 「下から私達が支える。 大丈夫、こんな崖ぐらいで、私達が死ぬモンですか!!」 アンジーとバレッタが、すかさずフォローに入る。 「うん、ありがとう。アンジー、バレッタ!! 彼女たちはいつも一緒だった。 同じ境遇が、彼女たちを自然に一つにした。 血こそ繋がっていないが、まるで姉妹のように通じ合った。 優秀ではなかったが、いつも明るく振る舞った。 “クヨクヨしても始まらない。明日はきっとイイ事がある” そう信じて生きてきた、だからこんな過酷な任務も、みんながいれば大丈夫だ!! 何も怖くない、私達には明日があるから。 だから負けられない、私達は誰一人欠けてはならない。 未来は、分かち合う者があってこそ素晴らしいのだ。 それに、一人はもう、耐えられない。寂しいのは嫌だった。 アンジー達は、基地の外壁に取り憑き、爆薬を取り付ける。 ここまでは教本どおり、訓練どおりだった。 だが、これからが本番だ。全員実戦は初めてだった。 緊張で身体が固くなっても、仕方がないだろう。 「へえ、以外とあっさり侵入できたわね? こりゃあ、案外簡単に片づくンじゃないの?」 「ちょっと、アンジー? 貴方、理解してるの? “新型”の破壊よ?は・か・い!!」 「………………おなか、へったよう……………」 緊張で身体が…あり? 「早速、お出迎えだわ!さすがに練度は良いわね?」 共和国の名機、コマンドウルフ部隊がハンターに襲いかかる! オオカミの持つ鋭い嗅覚と、そのコンビネーションが売りの機体だ。 ハンターは散開し、その攻撃をかわした。 「全く、このハンターにコマンドウルフですって?舐めてるわねえ!」 「アンジー、おかしいわ?」 「なによバレッタ?こんな時にジョークを言う余裕があんの?」 「ち・が・う! ハンターのコンバットシステムが…暴走してるわ!?」 それは、コマンドウルフ部隊にも、同じ症状が現れていた。 「隊長!コンバットシステムが?!」 「帝国のEMCか?!」 「恐ろしい奴らだ…」 知らぬ事とは言え、恐ろしい事だ。 「ねえ、アンジー?ひょっとして…」 「バレッタ!言わないで、その答え聞きたくな〜い!!」 「…犬猿の仲って、やつじゃあ」 あちゃ〜と、頭を抱えるアンジー。 信じられないが、ゾイドにも犬猿の仲が存在するようだった。 しかし、このまま暴走に任せれば、最悪相打ちにもなりかねない。 (何とかしなくては…) アンジーは、その脳細胞をフルに回転させた。 (閃いた!!) 「クリスティン!この仕事が終わったら、おごってあげる! 貴方の好きなバナナサンデー、食べ放題よ!!」 「バナナサンデー?!」 「ちょっと、アンジー? クリスティンの機体も暴走してんのよ?」 「アンジー、約束したかんね!!!」 クリスティンのハンターの動きが変わった。 パイロットの精神波が、ゾイドに影響を与える事がある。 アンジーは、それを思い出したのだ。 機能を回復したクリスティンのハンターが、牙を剥き出し雄叫びを上げる!! “キョェェェェ、キョェェェェ、フホフホフホ…” その特殊な音階は、コマンドウルフのコンバットシステムに干渉し、一時的にフリーズ させてしまった!! 「ス、スコット隊長…機体が動きません!!」 「くっ、たかが3体のゾイドに…」 ハンターの背中のビームバルカンが火を噴き、コマンドウルフを蹴散らしてゆく!! 「な、なんだ?!敵のパイロットの気迫は!!」 コマンドウルフ部隊は戦慄した。 敵は3体。しかも、ほとんど1体の攻撃で、こちらのゾイドはやられている!! 「無理もない…敵も必死というわけだな…死んでも、ここは通さない!!」 「ああ、おれ達が持ちこたえれば、マキシミリアン中佐が何とかしてくれる!!」 「それに、俺たちには“G2”がある!!」 コマンドウルフ部隊は再び立ち上がる!! 共和国の不屈の闘志は揺るがなかった!! 「クリスティン、一点突破よ!!」 「バナナサンデー!!」 ハンター部隊も負けてはいない!!…動機はかなり不純だが。 「イイわよ、クリスティン!! この戦いが終わったら、アンジーと私とで、一緒に食べに行こうね?」 「みんなと一緒に?」 「そうよ!クリスティン、だから絶対勝つのよ!!」 「うん!!」 アンジーが叫ぶ。絶妙のタイミングでクリスティンが反応した。 クリスティンのハンターの前足に装備された、レーザークローが一閃!! コマンドウルフ隊長機の前足を粉砕する!! 「ま、まだだあ!!」 「「「「スコット隊長!!」」」」 隊長機は、クリスティンのハンターの、のど笛に食らいついた! 「く、かなわずとも、貴様をここから先には行かせん!!」 コマンドウルフとスコットは、最後の力を振り絞ってハンターにトドメを刺そうとした。 「約束したんだ…」 「何だと?女、それも…子供じゃないか?!」 接触したせいか、コマンドウルフとハンターの間では、声が伝わっている様だった。 「みんなと、バナナサンデー食べるって約束したんだ!! こんな戦争、終わらせるんだぁぁぁ!!!」 ハンターがレーザークローを振り下ろした!! 「この先には、我々の希望がある…すまんが見逃す訳にはいかん!!!」 同時に、コマンドウルフがエレクトロンバイトファングを発動させた!! 「クリスティン!?」 「バカ、近すぎる!?」 閃光が、通路を駆けめぐり、大音響が敵味方全員の鼓膜を揺さぶった。 静寂が戻った後、そこにはハンターとコマンドウルフの残骸が無惨に残っていた。 アンジーとバレッタの声は、もうクリスティンに届く事はなかった。 コマンドウルフ部隊の尊敬すべき、スコット隊長も答えることはなかった。 残された者は泣いた、そして力の限り戦った。 コマンドウルフが吼え、エレクトロンバイトファングが閃いた。 ハンターが叫び、レーザークローが切り裂いた。 それから、どれほどの時間戦ったのか見当もつかない。 お互い手ひどいダメージを負ったが、かろうじてハンターが勝利を収めた。 だが、その代償は大きかった。 アンジーは、愛すべき仲間を失ってしまった。 たとえ戦争が終わっても、クリスティンは帰らない…。 「クリスティン…死んだら、何にもならないじゃないか…」 「行こう、バレッタ…新型はこの奥だ…」 2機のハンターは、G2の眠る格納庫に向かっていった。 “G2”の格納庫には、タイガーリリーの他は、誰もいなかった。 この状態では、一人でも戦う人間が欲しかった。 銃を持てる者は銃を取り、ゾイドに乗れる者はゾイドに乗りこんだ。 もとより、タイガーリリーに手助けなどいらなかった。 彼女は今、作業の大詰めを迎えていた。 「コンバットシステムには、エラーが見つからない…」 疲れた目をこするタイガーリリー。 「やはり、ゾイドコアね」 ゾイドコア。それは、メカ生体の中心部。 エネルギー源にして、心臓。 ゾイドの魂すらも、その部分に秘めていると言っていい。 人類の脳には、いまだ解析が終わっていない領域がある。 ゾイドコアもまた同じだった。 生きている人間の脳髄を、解剖する訳には行かない。 生きているゾイドコアを、解剖することも出来はしなかった。 神秘にして不可侵の領域。 「でも、ここを避けて“G2”の覚醒はあり得ないわ!」 (あたしはリュウガのパートナーを完成させる!) その思いが、彼女に今まで以上の働きをさせていた。 「ナノマシンを使うしかないわね…」 タイガーリリーは、鞄からシリンダーを取り出す。 透明なシリンダーには、光輝く光点が幾つも煌めいていた。 これが“伝承者”として、タイガーリリーに伝えられた技術だった。 ナノマシンとは、ナノサイズの、目には見えないくらい小さな機械の総称である。 これを利用し、地球人は医療や工業、惑星の環境改造まで手がけていた。 それほどに汎用的で、かつ強力な技術とも言える。 リュウガのZiキャンサーも、この技術によってその病状を食い止めていた。 本当は、治療を行いたかった。 だが、ゾイドはタイガーリリーにとっては、まだまだ未知の領域だ。 これから、研究することが山ほどある。 ゾイドコアも、その対象の一つだ。 (Ziキャンサーを眠らせることは出来た! 今度は、金属細胞に刺激を与えて、活性化させればいい!!) それが、技術者としてのタイガーリリーの答えだった。 シリンダーを端末に接続し、プログラムを書き換えてゆく。 そして、もう一つのシリンダーを取り出した。 銀に輝く、金属細胞のサンプルが納められていた。 リュウガの、Ziキャンサーのサンプルだった。 (人体には有害なこの細胞も、ゾイド自体には有効なはずだわ!) シリンダー同士を接合させ、ナノマシンとZiキャンサー細胞を融合させていった。 「できた! 後はこれをG2の体内に注入すればいいわ!!」 シリンダーの中身が、G2の体内に注がれていった。 (リュウガ!貴方の力の源をG2に与えたわ これが成功すれば、リュウガとG2はとても近い存在になれる!!) タイガーリリーは、生き生きと作業を進めていた。 タイガーリリーは初めて、自分に与えられた運命に感謝していた。 (強制され無理矢理働かされていた、あのころとは違う。 あたしはあたしの意思で、頑張っているんだ。 これはあたしの戦いだ!!負けるもんか!!) だが、その気持ちはG2には伝わらなかった。 何度もナノマシンに働きかけ、起動スイッチを入れる。 だが、G2はいまだに目覚める気配がなかった。 (諦めるもんか!!) 「ゴジュラス聞いて、恐れていてばかりいてはダメ!!」 タイガーリリーがG2に語りかけた。 非論理的と、まともな科学者なら冷笑する行動だ。 G2のゾイドコアは自閉症モード。 ゾイドは“目覚めてすら”いないのだから。聞こえていないのは当然だった。 タイガーリリーは続ける。 長年の友人に語りかけるように、優しく、心を込めて。 「あなたは今、生まれ変わろうとしているの。 今までにないパワーがあなたの内に秘められている。 強い力は未来を切り開く力。同時に、自らを滅ぼす諸刃の剣でもあるわ」 G2はいまだ目覚めない。いや、目には見えないかすかな振動が機体に現れ始めていた。 「あなたは、戦わず消えてゆくの? それでも誇り高いゾイドの王者“ゴジュラス”なの? 立って!あなたは充分に戦える!! 戦わずに負けても良いの?」 タイガーリリーは泣いていた。リュウガの好きな少女の顔で、心の底から泣いていた。 G2はまどろみの中にいた。 ナノマシンが、懸命にゾイドコアに働きかけた結果が現れ始めていた。 “この小さな生き物は、何だろう?” G2のセンサーがタイガーリリーを捉える。小さく、脆い。儚げですらある。 だが、とても大切な、守らなくてはいけない。そんな感じがした。 “もう一つ、違う個体が近くにいる… あれは…なんだ? この俺と同じモノだ!?” G2のセンサーは、医務室のベットに横たわるリュウガを捉えた。 “人か…いやゾイドか?! だが、俺はヤツを知っている!!” ドクン、とゾイドコアが動き出す!! タイガーリリーがハッとする。 「G2…あなた!?」 喜びに顔をほころばせた、次の瞬間! 招かざる来訪者が訪れた! 強固なハッチが粉砕され、爆風が格納庫内を荒れ狂う! タイガーリリーの小さな身体は軽々と吹き飛ばされ、G2のボディーにたたきつけられた。 「いったい、何が起きたの?」 タイガーリリーは朦朧とする意識をたぐり寄せ、爆炎の中に目を凝らす。 何か大きなモノがこちらに向かっていた。 「ゾイド?!」 タイガーリリーは恐怖した。ここには何の武器もない。 守ってくれるリュウガもいない。 (あたし…ここまでなの?) 絶望に押しつぶされそうになったとき。タイガーリリーの背中に、 しっかりとしたリズムが聞こえてきた。 ドクン、ドクン…。 G2は、その機能を働かせ始めていた。 ドクン、ドクン、ドクン!とゾイドコアの鼓動が高鳴る。 タイガーリリーはその力強いリズムに確信した。 「G2は目覚める!!」 歓声を上げるタイガーリリー。 『そうは、させないわ!!』 その喜びは、謎のゾイドからの声に否定された。 爆炎が晴れ、2体のゾイドが現れる。 帝国軍の高機動ゾイド、ハンターだ。 既に、ここに来るまでに幾度の戦闘を繰り広げたのであろう。 美しいフォルムは崩れ、内部のメカが露出していた。 人間で言えば血液に当たる、“ゾイドリキッド”が止めどもなく流れ続けていた。 (致命傷だ…良く、ここまで…) 敵ながら、その執念には感心するばかりだ。 もう、ハンターを動かしているのは、パイロットとゾイドの気力だけだった。 「クリスティン…もうすぐよ! 私達は、落ちこぼれなんかじゃない!!」 ハンターの目が輝く!獲物を見定めた狩人の目だ!! その目に射すくめられ、タイガーリリーは凍り付いた。 (逃げたい…でも!!) キッ、と気丈にハンターを見返すと、両の手を広げハンターの前に立ちふさがった! 『なに?!この女、何のマネ!!』 『そこをどいて、怪我をするわよ!!』 アンジーとバレッタは、タイガーリリーの行動にとまどった。 いかな軍人とは言え、生身の人間が立ちふさがったことで、急に正気を取り戻すことが ある。 無抵抗な者を、殺戮することには抵抗がある。 人間が本来持っている、当たり前の感情だ。 「退かない!!」 タイガーリリーは、小さな身体でG2を庇うがごとく、その場を動かない。 「約束したんだ、今度はあたしがリュウガのために戦う番だ!!」 G2は目覚めた。だが、リュウガはまだ目覚めない。 (G2をリュウガに渡すまでは、ここを離れない!!) 無茶だと分かっていた。無謀だと知っていた。 でも、これがタイガーリリーの精一杯の抵抗だった。 (逃げるのは、あたしの主義じゃない!!) 『どうしようアンジー?』 バレッタが戸惑う。本来軍人なら、迷わず任務を遂行すべきだろう。 バレッタは目の前の少女に、亡き妹クリスティンの姿を重ねていたのかも知れない。 『…そこを退きなさい!さもないと…』 アンジーのハンターがビームバルカンを構える。 ビームバルカンがエネルギーを充填し始めた。 (本気だ!) タイガーリリーは、敵のパイロットの感情を察した。 もはや、タイガーリリーなど目には入っていないのだろう。 タイガーリリーは、ゆっくりと目を閉じた。背中に確かなG2の鼓動を感じた。 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!! G2の鼓動が高まってゆく。 これでいい、充分時間は稼いだ。後は、G2が自力で脱出するだろう。 (もう一度…) ハンターのビームバルカンが照準を合わせた。銃口がしっかりとこちらを狙っている! 『アンジー?撃つつもり?!まだ子供じゃないか?!』 『バレッタ、ここで撃たなきゃ、クリスティンは無駄死によ…』 ビームバルカンの銃口が光を帯びる!! (リュウガに、会いたかったな…) |