6 欺瞞


 少し時間を戻すことになる。
 帝国軍のハンター部隊は、その機動力と高性能センサーを生かし、共和国軍の
コマンドウルフ部隊を追尾することに成功した。
 コマンドウルフ部隊は、リュウガの身体の状態を重く見て、基地への最短経路を
通ることにした。
 隠蔽工作を施してはいたが、ハンターのセンサーはさらに上を行っていたようだった。 こうしてハンター部隊は、ついにホワイトファング基地を発見することに成功した。
 
 アンジー達ハンター部隊は、共和国軍のホワイトファング基地の偵察を終えると、
帝国の移動基地として名高い巨大ゾイド、ホエールキングに帰投した。
 内部には“ドンケルハイト”部隊の司令室があった。
 反乱軍、…帝国が言う共和国の事だ。
 そこの新型ゾイドを破壊すべく組織された部隊。
 普段は遙か上空に待機しているために、ゾイド喰らいの影響は受けない。
 だが、このポジションからの捜索は、地上のゾイド喰らいが持つ電磁波の影響のため
難航していた。
 故に、地上部隊の情報を渇望していた。そのはずだった。
 「…ご苦労だった。」
 (たったそれだけ?)
 アンジーは上司である、ヴィル・ベルヴィント少佐からの言葉はそれだけであった。
 (労いの言葉くらい、あっても良いだろうに…)
 アンジー顔に不満が表れていたのか、ヴィル少佐の形の良い眉根がつり上がる。
 「他に何か?」
 きわめて事務的に言い放つ。
 アンジーは自分より若い、少年の面影を残したこの上司が嫌いだった。
 別に美形が嫌いだと言う訳ではなく、彼の持つ独特の雰囲気だ。
 零細沈着で、落ち着いた物腰が、実際の年齢より貫禄を持って見える。
 また、端整な顔立ちで、鉄面皮であることがよけいに感に障った。
 「いえ、報告は以上であります!」
 そう答えるのがやっとだった。ヴィル少佐の瞳は、氷のように蒼く冷たい。
 特に殺気を放っている訳ではないが、猛禽類のような鋭さがあった。
 (情けない…)
 アンジーは自己嫌悪に陥った。
 
 アンジー達ハンター部隊は、戦争孤児だ。
 戦争により両親を失い、行き場を失った子供達にガイロス帝国は生きる目的を与えた。
 “戦争を憎め。反乱軍をこの世から掃討せよ!!
  恒久なるガイロス帝国の繁栄と平和を勝ち取るのだ”
 そのために彼女は銃を取り、ゾイドにも乗った。
 戦うことに、ためらいはない。むしろ帝国のために戦えることは誇りですらあった。
 だが、お世辞にも有能とは言い難い彼女と仲間たちは、ほとんど雑用部隊として
扱われていた。それが、アンジー達の現状であった。
 (せっかくの、手柄だったのに…)
 共和国の新型も、この少佐によって破壊されるだろう。
 (少佐には勲章が、そして私達には、何も…)
 悔しかった。惨めだった。
 辺境に飛ばされ、その存在さえはっきりしない基地を探すのに約1ヶ月。
 運が良かったとはいえ、手柄は手柄だ。
 実績のない兵士は惨めなモノだ。
 さらに自分たちの境遇は、社会的に見てもあまり良くは見られない。
 手柄を立て、ガイロスを守った臣民として揚々たる凱旋を果たさねば、今後の彼女たち
の生活も暗いモノになってしまうだろう。
 アンジー達は、あの生活から抜け出したかった。
 (ガイロスのために、戦う気持ちは負けないのに!)
 アンジーは、両手をぎゅっと握りしめた。
 アンジーの感情を見越してか、ヴィル少佐が、かすかに嗤った。
 「これより我がドンケルハイト部隊は、
 “反乱軍”基地の制圧と“新型”ゾイド破壊の任務に当たる!!」
 「はっ!!」
 (これで、私達の仕事は終わりね)
 ヴィル少佐の次の言葉は、アンジーの予想を裏切ったモノだった。
 「アンジー曹長、君への任務だ。
  本隊が奇襲をかけると同時に反乱軍基地に潜入し、新型の破壊に当たれ!!」
 「はっ?!」
 アンジーは、今の言葉を信じられなかった。
 確かに、ハンターなら打ってつけのゾイドだ。
 いかなる難攻不落の要塞でも、潜入することには秀でている。
 その戦闘力も、中型ゾイドに引けを取らない。
 だからこそ、パイロットの選出には、神経を使うはずである。
 「不服かね?アンジー曹長?」
 ヴィル少佐がアンジーに問いかける。アンジーを煽るかのような言いぐさだ。
 「はっ!!我がハンター部隊は、本隊が奇襲をかけると同時に反乱軍基地に潜入し、
 新型の破壊に当たります!!」
 (願ってもない!これで、認めてもらえれば本国に帰れるかも知れない?!)
 アンジーは、ヴィル少佐の言葉に、何の疑問を持たなかった。
 自分を認めてくれた。その気持ちで一杯だった。
 さらにこの手柄で、本国に帰ることも出来るかも知れない!
 アンジーは、ブリーフィングルームを後にすると、ゾイド格納庫に飛んでいった。
 「…ふん、取りあえずは役に立ってくれたか」
 吐き捨てるようにヴィル少佐が呟いた。
 「“新型”は、この私が倒してこそ意味がある!」
 鉄面皮の表情がゆがむ。
 嗤っていた。まるで悪鬼の表情だ。
 「どのみち、ハンターごときでは、傷もつけられまい!
  新型との戦闘データーをいただけば、あんな落ちこぼれどもに用はない!」
 ホエールキングが降下を始めていた。
 目標は、ホワイトファング基地!!
 聖なる砂漠に、血の雨が降ろうとしていた。


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