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5 美しきゾイド タイガーリリーとマキシミリアン中佐は、ゾイドの格納庫に向かっていた。 「ここだよ、この格納庫に“G2”が居る」 扉には、大きくG2とペイントされていた。このハッチから察するに、中には 大型ゾイドが格納されているのだろう。 20mクラスはあろうか? 共和国で、Gのイニシャルと、この身長と言えば…。 「ゴジュラス!」 タイガーリリーは、そのゾイドを思い出した。 かつて共和国の切り札と言われた、最強ゾイド。 恐竜型の野生ゾイドと、地球人の科学力により誕生した、記念すべきメカ生体の傑作機。 「しかし、前の“大異変”で多くの大型ゾイドがその姿を消した。 ゴジュラスも、その数を減らしてしまったのだ」 マキシミリアン中佐が後に続く。 「じゃあ、この中にいるのは…」 「見てみるといい、“ゴジュラス・ジェネレーション”を!」 中佐がカードキーを取り出すと、スロットに差し込んだ。 重々しい音を響かせて、ハッチが開いてゆく。 「これは…!」 そこには、1体の芸術品があった。 無骨ではあるが、洗練されたフォルム。 ごつごつした表情は、原始の肉食恐竜そのものだった。 前傾姿勢が、足の速さも窺えさせた。 「大型ゾイドのクセに、こいつ機動力がありそうね?」 「気づいたか?!」 タイガーリリーの観察眼に、舌を巻く中佐。 背中の“ラジエータフィン”と腰部の“サブジェネレータ”がその証だ。 この2つの装置が、爆発的な加速を生むのだろう。 長く伸びた尻尾が、地面に接地していない。 今までのゴジュラスは自重を支えるために、尻尾にフレキシブルダンパーを装備する ほどだった。 今までのゴジュラスとは、全く次元が違っていた!まさにジェネレーションだ!! 開かれた顎(あぎと)には、金属の牙が聳えていた。 “キラーバイトファング” ゴジュラスの特徴がこの機体にも受け継がれていた。接近戦ではこの牙が物を言う。 金属細胞が単結晶化した牙を、防ぐ装甲は存在しないだろう。 また、爪も黒曜石のように輝いていた。 “クラッシャークロー” 小型ゾイドなどひとたまりも無いだろう。それほどの切れ味を予感させた。 さらに、火器も充実している。 背中には“大型ビームキャノン”を2門。 両後ろ足には“地対地ミサイルポッド” 尻尾の両付け根には“連装対空ビーム砲” あらゆる方向に対応が出来る、隙のない設計だ。 「これが新世代のゴジュラスの姿…」 (リュウガにも、見せたいなあ) きっと、子供みたいに喜ぶのだろう。その姿をタイガーリリーは想像した。 彼女の表情に、自然と笑みがこぼれた。 リュウガには、今まで相棒と呼べるゾイドがいなかった。 問題はリュウガの肉体だ。 どんな高性能のゾイドでも、乗りこなすリュウガ。 さらに、Ziキャンサーのキャリアたるリュウガは、人にない能力を手に入れた! リュウガのZiキャンサーは、ゾイドと人間のインターフェイスを果たし、ロスタイム無しのシンクロを可能とした。 つまり、パイロットであるリュウガの思考は、ゾイドの動きに連動すると言う事だ。 それがリュウガの強さであり、弱点でもあった。 リュウガとのシンクロは、ゾイドの寿命を著しく縮めてしまう。 “逆流同調現象” シンクロが極限まで高まると、限界を超えた性能を引き出すことが可能だった。 そう、ゾイド自身の耐久力さえ上回るほどに強力な性能を…。 度重なる、戦闘は確実にゾイドの寿命を縮めていった。 それほどに、リュウガの戦い方は激しいモノだった。 “逆流同調現象”は同時に、パイロットにも大きなダメージを与えることがあった。 リュウガは、ゾイドの痛みを共感することが出来た。だから、よけいに辛かったのだ。 故に、リュウガは相棒と呼べるゾイドを持たない、いや持てなかったのだ。 ゾイドを愛する彼らしい理由だと、タイガーリリーは思っていた。 同時に、とても可哀想だった。 リュウガはまだ、思い切りゾイドを操った事がないのだ。 ゾイド乗りにとって、これほどに酷な事はないだろう。 「中佐?お願いがあるの」 タイガーリリーが切り出した。 「G2をリュウガにくれたら…あたし、なんでも協力するわ!」 マキシミリアン中佐は、そんなタイガーリリーの言葉に目を細めて頷いた。 (ふっ、健気な事だ。リュウガめ、女を見る目はあると見える) 「ああ、約束しよう!だが、楽な仕事ではないぞ?」 「分かっているわ。あたしを必要とするのなら、それだけの仕事でしょ?」 「そうだ、君にしか出来ないだろうな」 中佐は、手元のコンソールを操作し、G2の内部構造を示した設計図を表示する。 「G2はその機体のほとんどが完成している」 「ええ、完璧ね。 でも、“起動しない”…そうでしょ?」 苦笑する中佐。全くかなわないと言う表情だ。 「そうだ、G2はどんなアプローチも受け付けない。 それも、全くの原因不明なのだ!! タイガーリリー君には、G2の起動方法を見つけて欲しいのだ!」 「コンバットシステムは?」 「問題ない。 地球人が我々にあたえたこのプログラムは、経験と知識の積み重ねにより ほぼ完璧と言っていい仕上がりだ」 人間の手によって改造されたゾイドは、コンバットシステムというOSによって 管理されている。 凶暴な野生ゾイドの本能をおさえ、人間が扱えるようにするための装置だ。 ゾイドを馬とたとえるのなら、“手綱”と言った所だろう。 戦闘時に迅速に動くために、擬似的な知能も与えられていた。 スリーパーゾイドなどがその例だ。 ただし、最終的には人間の判断力と瞬発力が物を言う。 それが、コンバットシステムの限界だ。 「このファイルを見てくれ」 マキシミリアン中佐が、タイガーリリーにファイルを見せる。 G2のゾイドコア、つまりゾイド生命の中心核のスキャンデーターだった。 「これは…?!」 「技術畑では、“自閉症モード”と呼ばれている」 自閉症モードとは、改造されたボディに上手くなじめず、外界からのアプローチに ゾイドコアが反応しなくなる現象の事だ。 ゾイドコアは、ゾイドのエネルギー源。 つまり、G2は動く事もままならない状態というわけだ。 「…何となく、分かった気がするわ」 「どういう事だ?」 タイガーリリーは、G2の姿に感動を覚えた。 それほどまでに洗練されたハイテクノロジーの結晶だ。 だが、それは搭載されるゾイドにとってはどうだろうか? 「この子、自分の身体が怖いのよ。とんでもない性能に、びびっちゃったのね」 「怖い?まさか、ゾイドにそんな感情があるはずがない!」 「…いえ、“この子”は恐れているわ。自分がとてつもない怪物になってしまう事に」 「闘争本能の高い、ゾイドだぞ?!強い力は歓迎されるのではないのか?」 「闘争本能の高さは、より“生きたい”と思う感情の表れだわ。」 そこで、タイガーリリーはリュウガを思い出した。 「ふふっ、この子とリュウガ、お似合いかもね?」 「うん?どうしてそう思うのかね?」 「どちらも自分自身に大きな怪物を抱えているわ。 …でも、お互いに生きる事に絶望なんかしていない! 彼らは戦っているの、生きるために!!」 タイガーリリーは確信を持って答えた。 「そうだな、君の言うとおりだ!」 「作業に入るわ!リュウガが起きるまでに仕上げなきゃ…」 その時、基地の警報が鳴り響いた!! 「どうした!!」 近くのコンソールに駆け寄るマキシミリアン中佐。 『中佐!帝国軍です!!帝国のゾイドが、この基地に多数接近中です!!』 「まさか、ゾイド喰らいの居るこの砂漠を、ゾイドの大群で…」 にわかには、信じられないことだった。 この砂漠のゾイド喰らいは、ゾイドのコアが発するエネルギーに敏感に反応する。 少数でも危険を伴うのに、大群で行動するなど自殺行為に等しかった。 「中佐!」 タイガーリリーが中佐に声をかけた。ハッとする、マキシミリアン中佐。 「すまん、ここは任せる!なんとしても、G2を完成させてくれたまえ!! 我々が、帝国軍を食い止めてみせる!! G2さえ起動できれば、帝国軍のザコなど恐れるに足りん!!」 「ええ、ここまで来て逃げるのは、あたしの主義じゃないわ!!」 タイガーリリーはG2に向き直ると、作業を開始した。 「…今度は、あたしがリュウガを守る番だもん!!」 |