4 剣闘士


 スコット大尉の部隊と合流し、リュウガ達はホワイトファング基地に到着した。
 自然の岩山を利用した、難攻不落の要塞だ。
 戦略ポイントとしての価値の低さと、ゾイド喰らいの存在を巧みに利用していた
 そう、帝国の接近を避けるように建設された基地だ。
 この基地の目的は、次世代の主力級ゾイドの開発だった。
 
 この基地の医務室でリュウガは処置を受けていた。
 「ちょっと!?リュウガ、起きなさいよ!!」
 (うるせえな、タイガーリリー)
 「全く無茶をするモノだ!軍医、リュウガ君はどうかね?」
 (お、デュラン・マキシミリアン中佐!そうか、ホワイトファングに着いたんだな。
 …あん?俺はどうしたんだ?身体が、動かねえ?!)
 「こんな、重度のZiキャンサーを見るのは初めてです。
  それに生体エネルギーを消費した事で、かなり体力が落ちています。
  抵抗力を失った肉体が、Ziキャンサーの浸蝕を速めてしまうかもしれません」
 (ははっ、やっぱりか…かっこつけすぎたかなあ)
 自分の身体は自分が良く知っていた。
 だが、リュウガは自分の運命を嘆くどころか、それに向かって立ち向かってゆこうとする。
 その気性は父親譲りだった。
 彼の父は、共和国のエースパイロット。巨大ゾイド、ゴジュラスのパイロットだ。
 リュウガは、どんな困難にも立ち向かい、勇敢で優しかった父が大好きだった。
 そんな父の生き方を、人々は古代ローマの剣闘士“グラディエーター”の様だと称えた。
 自慢の父、最愛の家族。
 だが、無敵のはずの剣闘士は無惨にも破れてしまった。
 リュウガは悔しかった。
 父の死が、グラディエーターたる英雄の伝説が終わりを告げる事が、どうしようもなく
悔しかった。
 成長した彼が、父と同じ戦場で生きる事を選んだ今も、その気持ちは変わらない。
 「リュウガ、ねえリュウガ?お願い、起きてよ!」
 (くそっ、俺はまだ、くたばらねえ!)
 リュウガの意識が遠のいてゆく。
 (くそ、くそ、くそ、俺も親父のように…死んじまうのか?)
 リュウガの手足に痺れが走った。手足の感覚がぼやけ始めている。
 「軍医、どうなっている?リュウガ君は、どうなるんだ?」
 (せめて…)
 「いま、全力でZiキャンサーの浸蝕速度を減勢させています!」
 (せめて、俺にもっと強い力があれば)
 「後は…患者の生命力を信じるしかありません」
 (力が、欲しい…)
 リュウガの意識が途絶えた。
 
 「タイガーリリー君、だったね?」 
  共和国ホワイトファング基地司令官、デュラン・マキシミリアン中佐の手が
タイガーリリーの肩に置かれる。
 たたき上げの軍人らしく、その手は岩のようにごつく大きい。
 「リュウガとは、旧知の仲だ。大丈夫、ヤツはこんな事でくたばりはせんよ?」 
 タイガーリリーの小さい肩に触れるその手は、優しく力強かった。
 「それは、パートナーのあたしが良く知っています」
 (あんたに言われなくても!)
 タイガーリリーは、わずかではあるが憤りを感じた。
 (そうだ、リュウガの事はあたしが良く知っている。
 でも、それは知り合って1年近くの、今までの事。
 中佐が言うリュウガの“強さ”を、あたしは知らない) 
 それが悔しかった。情けなかった。
 (何がパートナーよ!こうして見ているだけじゃないの!)
 中佐のように、リュウガを信じて待つ事が出来なかった。
 そんな自分がもどかしかった。
 「タイガリリー君、君に手伝って欲しい事があるんだ」
 不意に中佐が切り出した。
 タイガーリリーは振り向かない。そもそも、ここから離れるつもりもない。
 (あたしのせいだ!)
 スリーパーゾイドの特性も知らず、不注意な行動が結局はリュウガを窮地に追いやった。
 タイガーリリーは、自分の無力さに自己嫌悪していた。
 「いつまで、泣いているつもりだ!」
 中佐の言葉がきつくなった。タイガーリリーが中佐に振り返る。
 「事の詳細は、君から聞いた。確かに責任は感じるだろう。
  だがね、ただ泣いているだけで、リュウガが喜んでくれるかね?」
 「泣いてなんかいない、私に出来る事なんか無いじゃない!」
 タイガーリリー中佐にくってかかる。いつもの彼女に目になっていた。
 「1つだけあるよ。
  それに、メカニックである君にしかできない事だ」
 「私にしかできない?」
 (いまさら、何が出来るというの?)
 「君は、地球人の“伝承者”だね?」
 「!!!」
 タイガーリリーは言葉を失った。
 彼女は中佐の言うとおり、地球人の“伝承者”と呼ばれる者の末裔だった。
 
 かつて、惑星Ziに強大な科学力を提供し、メカ生体ゾイドを作り上げたのが
地球人の来訪者だった。
 その科学力は、ゾイド人に受け継がれた。
 だが、ゾイド人がその英知を、全てを知り尽くしたわけでは無かった。
 地球人の科学は、当時のゾイド人が自由に扱えるレベルではなかったのだ。
 “過ぎた知識は、自らを滅ぼす”
 地球人は時を待った。
 ゾイド人が成熟し、高度な知識を充分に操ることが出来るようになったのなら、
新たな知識を与えようと。
 地球人達は、ゾイド人と交わっていった。
 一方で、地球からの科学技術を守り伝える“伝承者”を選び、ひっそりと生き続けた。
 来るべき、未来。
 そこに、彼らの技術が必要になる日が来ると、信じて…。
 
 確かに彼女は、現在のゾイド人の科学者が、渇望する技術を受け継いでいた。
 リュウガのグローブを作ったのも、その技術の応用だった。
 「ぜひ、君に協力して欲しいのだ!」
 中佐は、真顔でタイガーリリーを見つめた。
 「…協力、私に何をしろと言うの?」
 投げやりにタイガーリリーが答える。
 (また、私を利用するの…)
 
 タイガーリリーは戦争が嫌いだった。何より戦争をする軍人が嫌いだった。
 戦争は彼女の同胞を離ればなれにした。
 軍人は“伝承者”の知識を欲し、タイガーリリー達のの自由を奪った。
 地球人の願いもむなしく、より強い技術を求める軍人達によって、
“伝承者”達は次々と捕らえられていった。
 そう、タイガーリリーも、そんな戦争の被害者だった。
 平和をもたらす力が、生んだ悲劇。
 (こんな力捨ててしまえば、良かったのよ!)
 
 タイガーリリーを救ったのはリュウガだった。
 リュウガは、共和国軍のマキシミリアン中佐と共に、“伝承者”解放作戦に参加していた。
 (自分はいずれ死ぬ。だが、多くの人間を助ける力になれるなら!!)
 リュウガは無謀とも言える作戦に進んで参加していった。
 まるで、死に場所を求めるように。それが、昔のリュウガだった。
 
 暗い研究室に突如の来訪者。それが、リュウガとの出会いだった。
 『ここは暗いだろ?俺が、外を見せてやる。来いよ?』
 不器用だが、暖かい言葉だった。初対面なのに、なぜか懐かしさを覚えた。
 まるで旧友との再会のように。彼を素直に受け止められた。
 『外は怖いわ…怖い人が一杯いるんだもの』
 タイガーリリーは、ほとんど外を知らなかった。
 外ではまだ、戦争が続いているのだろうか?
 また、怖い思いをするのは嫌だ!
 『…ここにいる事が、お前の幸せなのか?』
 『!!!』
 『こんな、トコに押し込めた軍人なんかクソっくらえだ!
 俺が、みんなぶっ飛ばしてやるぜ!!』
 『うふ、あっはははははははは!!』
 タイガーリリーは笑っていた。
 可笑しかった。腹の底から笑ったのは久しぶりだった。
 (なんて…バカで、口下手で、どうしようも無いほど不器用なヤツ!!)
 リュウガが憮然とした表情になる。
 『おい、なに笑ってんだ?おまえ…』
 (命を懸けて、来てやったのに!)
 と、死に急いでいたリュウガには、ありえない感情が芽生えた。
 唐突に、タイガーリリーがリュウガの言葉を遮った。
 『リリー!』
 『あん?』
 『あたしは、お前じゃない!ましてや、戦争に都合のいい“伝承者”でもない!』
 突然の剣幕に、さしものリュウガもタジタジだった。
 『あたしの名前はタイガーリリー、覚えときな!!』
 ポカンとするリュウガ。
 ハッと気持ちを取り戻し、リュウガも改めて自己紹介をする。
 『俺はリュウガ!
  傭兵だ。ゾイド乗りをやってる!
  戦争は嫌いだが、ゾイドは大好きだ!!』
 簡潔だが、リュウガの気持ちそのものだった。
 (裏表がないのね、バカだけど気に入ったわ!)
 タイガーリリーは、初めて仲間と呼べる人間に出会った。
 タイガーリリーの本当の人生は、ここから始まったとしても過言ではない。
 それだけに、彼女にとって、リュウガはとても大事な存在なのだ。
 
 「君の過去について、こちらで調べさせて貰った…」
 中佐の声に、ハッとするタイガーリリー。
 「そう…」
 めんどくさそうに、彼女は答えた。
 「君の知識をぜひとも貸して欲しい!」
 「嫌よ!!」
 タイガーリリーは頑なに拒んだ。
 「なぜ?ようやくあの暗くてクサイ研究室から抜け出せたのに…。
  軍人はいつでも、あたしから奪い去ってゆく!」
 タイガーリリーは泣いていた。自分でも、涙を止められない。
 「そうだ、我々は、人々の全てを奪い去る…」
 沈痛な面もちで、タイガーリリーを見つめるマキシミリアン中佐。
 「業の深い商売だ。君たちのような人間を生み出しているのは、私たちなのだ」
 「何を、いまさら!」
 「だからこそ、我々は負けるわけにはいかんのだ!」
 マキシミリアン中佐の語気が強まる。
 「なぜ?その考えが、多くの人々を悲しませているのよ?!」
 「誰かが、泣かなくてはならない、こんな時代を終わらせるためだ!」
 「そんな事、出来るモンですか!!」
 「これはリュウガ君の言葉だ!
  そして…リュウジ・カンザキ少佐、彼の父親の言葉だよ」
 「なんですって?」
 息をのむタイガーリリー。
 リュウガは、過去を語らない。
 昔の事を聞いてみた事はあるが、頑なに口を閉ざすのみだった。
 彼女の知らない、リュウガの過去。
 それが、マキシミリアン中佐によって語られた。 
 「『人とゾイドが仲良く暮らす、そんな世界が来ればいい』
  カンザキ少佐の口癖だ。リュウガ君は、その言葉を聞いて育った。
  カンザキが死んだ今も、その言葉はリュウガ君の中に生きているはずだ!」
 中佐の言葉に、リュウガが反応した。
 「う、あ…ち・か・ら」
 「リュウガ?!気が付いたの?」
 だが、リュウガは答えない。まだ意識は戻らないようだ。
 「力が、欲しい。俺は、まだ負け、たくない…」
 「リュウガ…」
 タイガーリリーは、無意識のリュウガの言葉にある希望を見いだした。
 (まだ、リュウガは諦めていない!)
 「中佐、あたしに出来る事って何?」
 「タイガーリリー君!頼めるか?」
 マキシミリアン中佐の顔がほころぶ。
 「勘違いしないで、リュウガは諦めていない。今も、リュウガは戦っている。
  あたしは、もう逃げないわ!!
  リュウガが戦うなら、あたしも戦うまでよ!!」
 その言葉にマキシミリアン中佐は、満足そうに頷いた。
 「そうだ、その言葉を待っていた!
  君たちから、我々軍人は多くのモノを奪ってきた。
  今度は我々から、君たちに贈り物をさせて欲しい」
 「贈り物?」
 「リュウガ君が欲しがっているモノ、“新たな力”だよ!」


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