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3 ゾイド喰らい 砂、砂、砂。それは、風と砂の巨大なオブジェだった。 「大きい…!」 タイガーリリーは、驚きのあまりそれ以上、喋れなくなった。 Ziセンサーが、前方からゾイドが接近している事を告げる。 「ちょっと、全長130mで移動速度80kmって、どんなゾイドよ?!」 リュウガは、前方の砂嵐を指さす。 「アレだよ」 「砂嵐じゃない?」 「アレは、小さいゾイドの集合体。いわば群体だ。 まるで1つの生き物のように行動する。 レブラプター集団の大きなゾイドコアの反応で、こっちを嗅ぎつけやがった!」 「ねえ、あの砂嵐の名前だけど…」 タイガーリリーが、おそるおそる聞いた。 「誇張じゃねえ、中に入った“生きたゾイド”は跡形もなく喰われる!」 タイガーリリーが生唾を飲み込んだ。 「まあ、ゾイド喰らいは、ただの金属や普通の人間は喰わない。 俺が、“ゾイドをつれて来られない”もう一つの理由だ。 分かったか?」 「そう、じゃああの中に逃げれば…」 タイガーリリーは、自分の言葉にはっとする。 リュウガを見る。既に、ゾイド喰らいに進路を取っていた。 「待って、どうするつもりよ?」 「ゾイド喰らいに逃げ込めば、助かる。 少なくとも、タイガーリリー?お前は無事だ。」 「リュウガ?あんたはどうするの、あんたの身体は…」 タイガーリリーは、リュウガのグローブに目を移した。 「心配か?」 リュウガは、にやりと笑った。 「ゴメン、リュウガ!あたしのために…」 「今度は俺の話、聞いてくれるよな?」 「何でも聞く!だから、無茶は止めて!!」 タイガーリリーは泣きそうだ。年相応の顔に戻っている。 リュウガは、タイガーリリーのこんな顔が好きだった。 口にこそ出さないが、大事なパートナーだ。 (守ってみせる!!) それが、リュウガにある選択をさせた。 「運転を代わってくれ。 それから、何があっても、このままの進路でまっすぐ突っ切る事。 …俺がいなくても大丈夫だろ?」 「な、なによ、冗談止めてよ!」 「逃げ切れよ!」 リュウガはジープから飛び降りた。ザザッと砂塵が舞う。見事な着地だ。 「リュウガのバカァ!」 タイガーリリーは、ジープと共に走り去った。言いつけ通り、ジープを走らせている。 (これで良い。後は俺が囮になるだけだ) リュウガはおもむろに両腕のグローブを外した。グローブの下からは、銀色の鱗に 包まれた腕が現れた。 ゾイド人と呼ばれるこの星の原住民は、進化をさかのぼれば元々はゾイドと同じ 金属生命体だった。 有機生命体となった今では、かつての金属細胞は痕跡程度しか残っていない。 リュウガは遺伝子疾患「Ziキャンサー」に冒されている。 体内の金属細胞が異常増殖する不治の病だ。 有機生命体にとって、金属細胞の異常増殖はガンと同義だ。進行すれば命に危険が及ぶ。 ガンと違う所は、人の身でありながら、ゾイドの力を手に入れる事が出来るのだ! リュウガは、その身に諸刃の剣を秘めていたのだ。 「やれやれ、結局はこの身体に頼るしかないのか…」 リュウガはグローブを背中のリュックに詰めながら、ため息をついた。 タイガーリリーは、このグローブを作ってくれた。 タイガーリリーに出会ってすぐのこと。 リュウガは、自分の病気が不治の病である事を話した。 あのころはやけっぱちで、死ぬことなんか怖くはなかった。 驚いた彼女は、3日間ろくに寝ずにこのグローブを完成させた。 微弱なパルスを流す事により、金属細胞の増殖を押さえるそうだ。 少なくとも、気休めではあるが、延命措置は出来た。 「生きてさえいれば、いつかこの病気も直る日が来る」 タイガーリリーは、そういってリュウガにグローブを渡した。 その時のタイガーリリーの顔は、一生忘れることが出来ないだろう。 憔悴し、ボロボロで、今にも倒れそうなタイガリリー。 それでも彼女は、気丈に笑っていたのだ。 それ以来、リュウガは死ぬためにではなく、生きるために戦う事にした。 (あの微笑みを、無駄にはしない!!) それが、リュウガのタイガーリリーへのケジメだった。 「後ろからは、レブラプター。前にはゾイド喰らいか…。」 (まずは、レブラプターをおびき寄せる。それまでは、ここを動かない!!) 小型とは言え、全高8m近くあるゾイドが大群で迫って来るのだ。 リュウガの胆力は、すさまじいモノだった。 ひょっとしたら、肝も金属細胞で出来ているのかも知れない。 自暴自棄のようにも見えるが、リュウガの瞳は死に逝く者の目ではなかった。 リュウガは、レブラプターがギリギリまでの距離に来るまで待機した。 大きな足音が、リュウガに迫る!!この音の圧力だけで、吹き飛ばされそうだった。 (今だ!!) リュウガは、力の限り走った。ゾイド喰らいのまっただ中へ! そう、ゾイド喰らいはその名のとおり、生きたゾイドを喰らう。 レブラプターは格好の餌食だろう。 無論、リュウガもその対象になる可能性があった。 グローブをつけていれば、体内の金属細胞が休眠状態になり、ゾイド喰らいから 逃れられるだろう。 一か八かだ。それに、レブラプターから逃げるためには、ゾイドの力が必要だ。 並外れた脚力で、はるかに大きいレブラプターと互角のスピードで走る事が出来た。 (後はタイミングだ!) リュウガは、レブラプターを十分に引きつけ、ゾイド喰らいに突入した!! 遙か向こうから、この光景を観察するゾイドがいた。 アヌビスヒヒ型帝国製ゾイド、「ハンター」だ。 岩場に、3体が身を潜めていた。 「…ふふ、こんな辺境で面白いショーが見られるなんて…」 ゾイドの望遠レンズを覗くハンターの女パイロットは、リュウガに興味を示した様だ。 バイザーの脇から、炎のような赤毛が伸びていた。 「アンジー?そんな事をしている場合?! あたし達の任務は…」 「分かってるわ、バレッタ。共和国の“新型”の捜索。 でも、こんな辺境に基地なんかあるの?」 バレッタと呼ばれた長身で細身の女パイロットは、ため息をついた。 砂漠での長期任務について約1ヶ月。いまだ決定的な情報が得られずにいる。 「うん?ひょっとするとヤツが“新型”の…パイロットかも?!」 「アンジー、ちょっと?憶測で行動スンの止めなさいよね!?」 アンジーと呼ばれたパイロットは、既にリュウガのマークを始めていた。 バレッタが、またため息をつく。 「…まったくもう、あれでも私たちのリーダーなのかねえ? ねえ、クリスティン?あんた、さっきから静かね?」 クリスティンは、幼さを残した女パイロットだ。 バイザー越しには、その表情は分からない。 だがこの炎天下の中、微動だにせず待機を続けている。大人顔負けの忍耐強さだ。 その彼女が、遂に口を開いた! 「……………おなか、へったぁ………………」 …どうやら、空腹で動けなかっただけらしい。 バレッタは、さらに大きなため息をついた。 (ああ、いつになったら本国に帰れるのかしら?) 空の蒼さが、とても悲しい色に見えた。 リュウガやレブラプターに、ゾイド喰らいが一斉に襲いかかった!! (まるで体中を引き裂かれるようだ!!) リュウガの腕を中心に劇痛が走る!! しかし、まだグローブをはめるわけにはいかなかった。 ゾイド喰らいにおそわれたレブラプターは次々と倒れていった。 それでも、リュウガに食い下がり、執拗に追いかけて来るレブラプターもいた。 死に損ないでありながら、スピードが落ちる気配がない。敵ながら、恐ろしい執念だ。 (くそ、とっとと喰われちまえ!) 身体を蝕む様に、ゾイド喰らいはリュウガの身体にダメージを与え続ける。 レブラプターも同様だが、まだまだ諦める気配がない。 (っく、目がかすんできやがった…) どうやら、幸運の女神は微笑まなかった様だ。 (これまでか…) “ダーーーーン” “ギョウェェェェェェ!?” リュウガが覚悟を決めようとしたとき、砂嵐を切り裂いて、弾丸がレブラプターを 吹き飛ばした! 「この、銃声はどこかで…」 リュウガは、弾丸が飛んできた方角に目を凝らした。 うっすらと見覚えのあるジープと、長い銃を構えた人物が見えた。 「タイガーリリー!?あのバカ、戻って来やがって!」 「リュウガ、早く乗って!」 「バカヤロ、何で逃げなかった?」 「私たち、パートナーでしょ?」 タイガーリリーがまっすぐリュウガを見据えた。この目には、勝てない。 「よし、車出すぞ!」 リュウガがジープに飛び乗り、アクセルをふかす。 「とっととくたばれ、死に損ない!」 タイガーリリーは後方のレブラプターを次々に撃墜してゆく。 (この調子なら、逃げられる!) だが、運命はさらに過酷だった。 ジープが急ブレーキをかける。 「どうしたの?」 危うくタイガーリリーが、振り落とされそうになった。 「行き止まりだ…」 前方には、巨大なゾイドの残骸があった。三本の角が、こちらを向いている。 トリケラトプスを思わせる風貌。 かつて共和国を脅かしたデスザウラーに対抗すべく作られた最強ゾイド、 “マッドサンダー”のなれの果てだった。 死んだゾイドは石化し、後は風化してゆくのみだ。 死んだとはいえ、その巨体が朽ち果てるには、さらなる時を待たなくてはならなかった。 「万事休す…か?タイガーリリー、弾は何発残ってる?」 「もう、2発しかないわ。レブラプターはあと5機もいる…。 このマッドサンダーが、私たちの墓標ね。」 レブラプターの足音が近づいてくる。死神の足音はきっとこんな感じだろう。 「畜生!このマッドサンダーがせめて動いてくれたなら!!」 その時、リュウガにあるアイディアが浮かんだ。 (危険だが、まだ助かる見込みがある!) 「タイガーリリー、付いて来い!」 リュウガは彼女の手を取り、空いた手で軽々とZiスコルピオンをひっつかむと、 マッドサンダーに登り始めた。 「ちょっと、このゾイド死んでるんでしょ? 生きているなら、あんなゾイド楽勝だけど。 死体の中に身を隠しても、逃げられないわ!」 2人はマッドサンダーの背中にある、コックピットに到着した。 計器類は、既に動かなくなっていた。 「完全に死んでる。もうあたしの仕事じゃないわね?」 タイガーリリーの言葉に嘘はない。人間なら、医者より坊主の仕事だ。 「奇跡を信じるか?」 リュウガが呟いた。 「なんですって?」 「今から、俺が奇跡を起こす! タイガーリリー、お前はレブラプターの接近をくい止めてくれ! ほんの少しで良い!!」 リュウガの言葉には、希望を失わない力強さがあった。 タイガーリリーはリュウガら、Ziスコルピオンを受け取った。 「分かったわ! でも、1分が限界よ?」 その言葉に、リュウガが力強く頷いた。 タイガーリリーは外に身を乗り出し、ライフルを構える。 「ムゥン!ハァァァァァァァァッ!!」 リュウガは呼吸を整え、体中に気合いをため込んでいった。 レブラプターが、よじ登ってくる! 「来るな!」 タイガーリリーはライフルを撃った。 よじ登ってくるゾイドの後ろ足を砕き、後続のゾイド達を巻き込んだ。 「リュウガ!まだなの?!」 遅れてきたレブラプターがよじ登り始めた。 狙いを定めて撃つ。今度は前足を砕いただけだった。もう弾がない! タイガーリリーにレブラプターが迫る! “キュァァァァァァァ!!” 「死んだら、化けて出てやるんだからぁ!!」 その時、リュウガの身体に異変が起きた。 銀色の輝きを放つ腕が、閃光に包まれた! 「ウオォォォォォォリャァァァァァァァ!!!」 リュウガはためらわずに、その拳をコンソールの中にたたき込んだ! 死んだはずのマッドサンダーに振動が走った。 その振動で、タイガーリリーを襲いかけたレブラプターが振り落とされる。 間一髪、だった。 「リュウガ?あんた、何を?」 リュウガは、額に玉のような汗を浮かべていた。 まるで、体中のエネルギーを振り絞るかのようだ。 コンソールにめり込んだ両腕がスパークした! 死んだはずのマッドサンダーの角が、回転を始めた! 三本の角の内、上二本はマグネーザーと呼ばれる特殊な電磁波を放つドリルが 装備されていた。 超硬質のドリルと電磁波の反発力の相乗効果により、理論上破壊できないモノは 存在しなかった。 今再び、マグネーザーがその力を解放した!! マグネーザーから放たれた電磁波は、砂粒に等しいゾイド喰らいの身体に干渉し、 徐々に回転力を伝えていった。 “ギュォォォォウ?” とっさの事にレブラプターの反応が遅れた。 自動制御のゾイドは、このような突発的な状況への対応が遅れる事がある。 そこが、リュウガ付け目だった。 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」 気合いを込めて、リュウガが吼える!! ゾイド喰らいは、マグネーザーを中心に巨大な渦を形成しはじめた。 縦の渦が、横の渦になり、わずかに生き残っていたレブラプターを飲み込んでいった! 「スゴイわ!ゾイド喰らいが、マグネーザーの電磁波で次々と誘爆していく…」 タイガーリリーはその光景に息をのんだ。 光の渦はさらに輝きを増し、哀れなレブラプターを磨り潰すように消していった。 その破壊エネルギーは、帝国の誇る荷電粒子抱にも負けなかっただろう。 「…タイガーリリー、レブラプターは?」 息も絶え絶えに、リュウガが問いかける。 「待って、いまZiセンサーで調べてみる。 …大丈夫!もう、レブラプターもゾイド喰らいもいないわ!!」 それを聞いたリュウガは、ぷつりと糸が切れた操り人形に様に、床にぶっ倒れた。 「ちょっと、リュウガ?」 タイガーリリーが、リュウガを揺すってみる。 リュウガは盛大なイビキをかいて眠っていた。 「ふふっ、これだから離れられないのよね。 リュウガからも、ゾイドからも」 タイガーリリーは、パートナーに膝枕をしてあげると、その寝顔をしばらく眺めていた。 「寝顔は、けっこうイイ線いってるンだけどなあ?」 どうも、お互い起きていると変な意地を張ってしまうようだ。 「ちょっとだけ、ね?」 タイガーリリーの顔がリュウガに近づいてゆく。 その時だ! タイガーリリーの無線機に、突然通信が入ってきた。 驚いて、辺りを見回すタイガーリリー。いや、誰も見てはいないのだが…。 「こちら、共和国ホワイトファング基地、コマンドウルフ部隊隊長、スコット大尉だ。 あんまり遅いから迎えに来たぞ! 近くにいるなら、応答してくれ! こんな騒ぎを起こせるのはリュウガ、あんたしかいないはずだ!!」 マッドサンダーの近くには、オオカミ型の共和国ゾイド、コマンドウルフ部隊が 集結していた。 どうやら騎兵隊の登場らしい。 「…もう、早く来るのか、遅く来るのかはっきりしなさいよ!」 (ちょっと、惜しかったかなあ? 早くリュウガをおこして、あの隊長に合流しなきゃ) 「ねえ、リュウガ?」 タイガーリリーは、リュウガの身体から流れる汗に気づいた。 額に触れる、すごい高熱だ。 タイガーリリーは、無線機の電源を入れると、急いで周波数を合わせた。 「こちらはタイガーリリー、リュウガのパートナーよ。 大尉、聞こえて?お願いリュウガを助けて!!」 ハンターの3人娘も、その光景の一部始終を観察していた。 「やったわ、ビンゴよ!大当たり!マーベラスだわ!!」 「アンジー?時々、あんたが分からなくなるわ」 優秀なのか、バカなのか。ひょっとして、運が良いだけかも知れない。 「とにかく、共和国の連中を尾行して、奴らの基地を見つけるのよ!」 「ええ、私たちのハンターなら、造作もないわ!…クリスティン?準備は良くて?」 「………………おなか、へったぁ………………」 いまいち気合いにかける、ハンター部隊であった。 |