2 聖なる砂漠


 銀河の彼方にある惑星Zi。
 そこには優れた戦闘能力を秘めた、巨大金属生命体“ゾイド”が存在した。
 ゾイドは自ら戦う意志を持ち、人類はその強大な力を兵器として利用した。
 この惑星には、ヘリック共和国とガイロス帝国の2大勢力が存在していた。
 欺瞞に満ちた休戦状態は唐突に終わりを告げ、再び戦火が大陸を焦がす。
 現在は技術的に上回る帝国が、優勢であった。
 対する共和国は、大崩壊と呼ばれる天変地異のため主力ゾイド“ゴジュラス”を
多数失い、苦境に立たされていた。
 
 西エウロペ大陸グレイラスト(白い砂漠)
 金色の太陽と銀色の月光が照らす聖なる砂漠。
 砂塵渦巻くこの場所に、共和国秘密基地“ホワイトファング”があった。
 わざわざこのような過酷な環境に身を潜めるのも、この砂漠の特性を生かしてのことだ。
 
 この基地を目指し、白い砂漠を、ジープが駆ける!!
 ジープの搭乗者は青年と少女。
 デートにはいささかムードに欠ける場所だ。
 助手席の少女が後ろを振り返る。見たくないヤツがそこにいた。
 はっきりいって、今の状況は最悪である。
 「ちょっと、リュウガ!!後ろを見てよ、ほら!!
 あれ、レブラプターよ?帝国の機体がなんでこんなトコにいるのよ?」
 ベロキラトプトル型のゾイド、レブラプターは帝国の誇る俊足ゾイド。
小型だがそのぬらりと光るかぎ爪を使い、集団で自分より大きな獲物を仕留めてしまう。
 「タイガーリリー、心配ない。俺がついてる」
 リュウガと呼ばれた男は、落ち着いた声で少女に答えた。
 黒い瞳に、揺るぎない炎を宿し、日焼けした浅黒い肌と黒髪がいっそう精悍さを
増している。
 額の傷から、彼が危険と隣り合わせの仕事を行っている事が想像できた。
 そう、彼は傭兵だ。
 それも、とびきり優秀で危険なヤツだ。
 特に目を引くのは、両腕の黒いレザーのグローブ。
 肘まで覆うグローブには、ごついベルトが3本ずつ付いており、腕を厳重に囲っている。
 良く見ると、幾何学模様の様な筋が幾重にも刻まれていた。
 光の粒がその溝を駆けめぐっていた。ナノマシンの光だ。
 ゾイド人は、ナノテクノロジーを“持っていない”。
 オーバーテクノロジーであるナノマシン技術の結晶を、リュウガは、当たり前のように
身につけていた。
 「リュウガ?あんたって人は…」
 タイガーリリーと呼ばれた少女がため息を漏らした。
 大きめのメガネごしに見える鳶色の瞳が、相棒に向けられる。
 (根拠のない、その自信がうらやましい)
 はっとするほど綺麗な金髪に、黒いメッシュが入っている。
 タイガーリリーの名は、どうやらここから来ているようだった。
 リュウガが肉体派なら、タイガーリリーは頭脳派だった。
 だから、根拠のない話で納得するほど、お人好しでは無かった。
 「この際だから、言っておくけど…リュウガ、あんたとの心中スンの、御免だかんね!」
 「当然だ!俺だって相手を選ぶ権利がある!」
 「ちょっと?!微妙に論点がずれてない?」
 “ギャォォオォォォォォス!!”
 レブラプターが迫ってくる!相手はゾイド、こちらはジープ。
 いつまでも逃げ切れるモノでもない。じわじわとその距離が縮められていった。
 「ねえ、リュウガ?どうしてゾイドで来なかったの?
  新型のライガーゼロは?気に入っていたじゃないの!?」
 今の時代、いつどこで危険が待っているか分からない。
 民間でも戦闘ゾイドで武装するほどだ。
 傭兵たるリュウガがゾイドに乗っていないは、確かに不自然だった。
 リュウガは、寂しそうに呟いた。
 「ああ、ライガーとは“逆流同調現象”が起き始めていた」
 「…そう、ゴメン!
  あの子でも、ダメだったんだ」
 「まあいいさ、相棒ならこれからいくらでも見つけられる。
  俺のわがままで、ゾイドを死なせたくはないからな」
 どうやら、リュウガには人にはない“力”があるようだ。
 それが、ゾイドの限界能力を引き出し、性能以上の力を引き出すことが出来るのだろう。
 ゾイド自体の寿命を縮めてしまうほどに、リュウガの“力”凄まじいようだ。
 「それはいいが…タイガーリリー?ここの砂漠の話、知らねえのか?」
 「なによ?メカニックのあたしが、地理にも詳しくなくちゃあいけないの?」
 ふがいない相棒に嫌気がさしたのか、さっきからどうも虫の居所が悪い。
 他に当たるヤツもいない。気分的にはレブラプターに八つ当たりしたいが、命は惜しい。
 リュウガなら、多少八つ当たりしても命の危険もない。
 それに、リュウガはタイガーリリーに大きな借りがあった。
 だからこそ、リュウガはタイガーリリーと行動を共にしている。
 タイガーリリーにとっても、リュウガはとても興味深い“研究対象”だった。
 だが、お互い相性が良いとは言えなかった。
 「なんとか言いなさいよ!!」
 「なんとか」
 「面白くない!!」
 レブラプターの爪が、ジープに届きそうだ。
 レブラプターは小型であるが故に、その機動力は並はずれたモノがあった。
 「い、いや〜!リュウガ、あんた男でしょ?何とかしなさいよ?!」
 「なんとか」
 「口じゃなくて、行動で示せよ!!」
 “ゴトン!!”
 後ろの荷台から音がする。タイガーリリーは音の元を確認した。
 重くてデカイ、対ゾイド用ライフル「Ziスコルピオン」!!
 「な〜んだ、武器があるなら早く言いなさいよ!」
 タイガーリリーは荷台に写ると、Ziスコルピオンを手に取った。
 「ふむ、手入れは悪くないわね?」
 「おい、タイガーリリー?まさかとは思うが…」
 「言ったでしょ?あたし、あんたと心中スンの御免だって!」
 何もせぬまま、死んでゆくのはタイガーリリーのプライドが許さない。
 どんな些細な可能性でもモノにしようとあがく。タイガーリリーはそういう性格だ。
 「メカなら、どんなモノでもあたしのオモチャよ!」
 「銃はオモチャじゃねえ!!」
 対ゾイド用ライフルは、銃身だけでも1.8mはくだらない。
 その重量も半端ではなく、銃口付近に2本の脚が付いており、発砲時には伏せた姿勢から狙撃する。弾丸に使用するパウダー(火薬)もかなり強力だ。
 慣れないハンターが、反動で鎖骨を骨折する事も珍しくはない。
 「大丈夫!あたしに任せなさい!!」
 「おいおい、根拠がねえぞ。その自信はどっから来るんだ?」
 「リュウガ、あんたに全部その言葉返す!!」 
 リュウガは、Ziスコルピオンとタイガーリリーの奇妙な共通点を発見した。
 「どちらも手に負えない…」
 リュウガは小声でそう呟いた。そこでリュウガはある事を思い出した。
 (いかん、大事な事を忘れてた!)
 「タイガーリリー?いいか、良く聞け!!あのレブラプターはなあ…」
 「話しかけないで!気が散る!」
 彼女は、既に発射体勢だ。
 この狭いスペースで発射体勢を整えたのも驚きだが、この体勢で撃つ気だ!!
 「…本気か?!」
 「あんたは、ステアリングを握ってなさい!アクセルゆるめたら承知しないわよ!!」
 「分かった!…って、そうじゃねえ。撃つの待て!」
 「イケル、ど真ん中!!」
 Ziスコルピオンが火を噴いた!!
 ジープに爆音が轟く。
 焼けた薬莢が、リュウガの頬に向かって来た!
 とっさにリュウガは、片手で薬莢を受け止めた。
 ギインとまるで金属がぶつかり合う嫌な音がした。
 リュウガは、窓の外に薬莢の残りかすを放り投げた。
 砂の上に落ちた薬莢は、まるで飴のようにひしゃげていた!
 並はずれたバカ力!…いや、それだけなのだろうか?
 「うあっちい!!バカ、気をつけろ!!」
 普通、熱いでは済まないのだが…、リュウガは平気なようだった。
 「…命の恩人に、その態度なの?」
 タイガーリリーが不敵に微笑む。
 後ろのレブラプターが、悲鳴を上げる。
 “ギョウィィィィィェェェェェェェ!!”
 (やっちまった…)
 タイガーリリーは勝ち誇り、無い胸を反らした。逆にリュウガは頭を抱えた。
 哀れなレブラプターは、頭部のコックピットを破壊され、その場に崩れ落ちた。
 頭部のキャノピーに、大きな穴がうがたれていた。
 このレブラプターは無人機だった。
 俗に言う「スリーパーゾイド」、言うなれば“生きたトラップ”だった。
 リュウガは、青ざめた。
 (早くここから逃げ出さなくては!!)
 「ねえ、ちょっと?
 なんで、こんなに急ぐのよ?
 あたしがレブラプター倒したのよ?!」
 「ああ、おかげで大ピンチだ!!」
 「…どういう意味よ?!」
 (せっかくの手柄を、誉めてくれても良いだろうに)
 タイガーリリーは唇を尖らせた。
 前方に突如、砂の山が出現した。
 砂の中から、レブラプターが現れる!少なくとも10体は下らないだろう。
 「ねえ、どゆこと?!」
 「スリーパーゾイドは、死に際に仲間を呼ぶんだよ!!
  だから、適当に撒いてやろうと思ったんだ!!
  …この、役立たず!!」
 「な、なんですって!」
 「少しは反省を…」
 「なんで、もっと早く言わないのよ!!」
 「聞く気があったか?」
 リュウガは、ジト目でタイガーリリーを睨んだ。
 
 レブラプターの爪が唸りを上げて襲いかかった!
 リュウガは、巧みなドライブテクニックでその攻撃をかわし、次々現れる砂の山を
すり抜けていった。
 レブラプター達は、その動きについてゆけず、混乱した様だった。
 
 「う゛っ…じ、じゃあ、これから行く基地に救援を求めたら?」
 「駄目だ!
  みすみす奴らに、基地の場所を教えちまう。
  依頼主を殺されたら、傭兵は飯の食い上げだ!」
 予定は大幅に狂いそうだった。
 むしろ、ここでくたばってしまう確率が高い。
 タイガーリリーはZiセンサーを働かせ、レブラプターの数を数えた。
 
 ゾイドは機械生命体である。その体内には、“ゾイドコア”と呼ばれる本体がある。
 機械で言うならエネルギー源であり、生命体なら心臓にあたる。
 体内を循環する“ゾイドリキッド”が血液の役目を果たし、ナノサイズのゾイドを循環
させることによって、ゾイドは生き物のように新陳代謝を行い、小さい傷なら自力で回復
することが出来た。
 また、エネルギーの伝達も、このゾイドリキッドによって行われている。
 ゾイドコアとは、“ゾイドの命”そのものである。
 ここが破壊されない限り、ゾイドは死ぬことはない。
 
 Ziセンサーとは、ゾイドコア反応。すなわち、ゾイド生命体が活動するときに発する
鼓動や電磁波等のノイズをキャッチすることが出来た。
 生きているゾイドなら、新旧を問わず、このセンサーに反応があるという仕組みだ。
 
 「…砂の中のレブラプターもカウントに入れると、数十体いるみたい。
  なんで、見つからなかったのかしら?」
 「休眠モード、いわゆる仮死状態だ。
  それは、敵が近づくまでエネルギーを温存しつつ、見つけにくい。
 …初歩だぜ?」
 「だから、“ゾイド”は研究中だって言ったじゃない!」
 「この“星”の人間なら、常識だ」
 2人の口論は、Ziセンサーの警報に遮られた。
 「何の音?」
 「ちっ、“ゾイド喰らい”が、出やがった!?」
 2人の前に、新たな脅威が迫っていた。
 “ゾイド喰らい”と呼ばれたモノは、光り輝く巨大な砂嵐だった。


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