【黒い雪】最終話 生き残る為の選択


 ヨッシー准尉のテムジンJ/Sは17秒経過した後、ヤガランデの背後に回り込んだ。
クリス少尉のJ/cは既にボロボロの状態になり、ヤガランデは誰も居ない虚空へ向けて攻撃を繰り返す。
 恐らく、コリン曹長のJ/fが死に物狂いで回避して居るのだろう。
丘の上から、J/S2型が援護射撃をしているが無視されている事から、大きな効果は挙げていないのだろうか。
 准尉はスライプナーをラジカル・ザッパーに変形させ、ヤガランデの左側を狙い、一条の光を放つ。
 それは彼に向き直ったヤガランデが向けた右腕に直撃し、バスターRの先端から、黒い煙を上げ、発射を阻止する。
「遅いぞ、准尉」
クリス少尉は口の端に血を滲ませながら、叱咤した。
 だが、ヨッシー准尉はそれに答えず、前にダッシュし、一心不乱にヤガランデとの距離を詰める。
ヤガランデはバスターLをJ/Sに向けるが、突如、それは内側へと逸れた。青年は最大の隙を狙い、ライフルを発射。ビームはヤガランデの腹部、胸部、顔面と駆け上がる様に直撃。
 だが、巨大な悪魔はまったく堪えた様子も無く、煙の収まったバスターRをヨッシー機に向け、発射するが、偶然にも光球は段差に潜り込んだ彼のテムジンの頭上を通り越した。 それにムキになったのか、ヤガランデはJ/Sに右腕を振り上げて、勢いを増し、叩きつけようとするが、彼はそれを右にダッシュし、その途中で前に軌道を変え、ライフルを放つ。
 その一撃ですらもヤガランデには大した効果を上げられない。
ヤガランデはヨッシー准尉のテムジンを無視し、目標を丘の上で援護して居たJ/S2に定め、このVRに対して、TFCイレイザーを放つ。
 J/S2は足場の悪い丘の上でそれを避けようとするが光の束は丘の半ばに抵抗無く、押し入り、大きな爆発と大量の水蒸気を発生させ、雪崩を起こす。
 赤い雪煙が上がる中、僚機の姿は見えない。雪崩に巻き込まれたのか、あの一撃で消し飛んだのか・・・
 だが、ヨッシー達にそれを考える暇さえ与えられない。
最悪の破壊神は次なる獲物を求め、岩壁を背にするクリスのJ/cに対して、横から、左腕を振るう。
 直撃を受けたJ/cは質量を感じさせずに空へ投げ出され、頭部から赤い大地に叩きつけられる。手にしていたスライプナーSは地面に転がり落ちた。
クリス機は操作系統が故障したのか、まったく動かなくなる。
 その間もヨッシー准尉はライフルで攻撃を続けるが、効果が得られているのかは疑わしい。それでも、彼は諦めること無く、攻撃を続けた。
 破壊神は准尉機に向き直り、攻撃し終えたJ/Sと対峙する。
ヤガランデが攻撃に移ろうとした瞬間、横から、足に傷が入った。コリン曹長の攻撃だろうが、敵は死神が鎌を振り下ろす如く、左腕をコリン機が居ると思われる地点へ目がけて叩きつけた。
 金づちで釘を叩く様に攻撃を上から受けたJ/fはステルスが解け、姿を現し、腰の部分から折れ曲がり、ひしゃげた釘を連想させる最後を遂げる。
 その間にヨッシー准尉はライフルを発砲しながら、J/Sに間合いを詰め、果敢にヤガランデに斬りかかった。
 必殺の一撃はヤガランデの足元に深く抉り、大ダメージを与えるが、破壊神はそれでも動きを止めずに左右の腕を横殴りにJ/Sを叩きつけた。
 ヨッシー准尉のJ/Sはその二回の攻撃をスライプナーでガードし、辛うじて持ち堪えるが、次にこの攻撃を食らったら、大破するだろう。
 彼もその事を悟っていたのか、ヤガランデが上から振り下ろす鉄槌を受けること無く、右にダッシュし、左に潜り込み、ライフルを発砲。放たれた三発の光の弾丸は破壊神の左脇腹に直撃し、初めて、その動きを停滞させる。
 ヨッシー准尉達の攻撃が無駄では無かったのか、禍禍しき破壊神はその実体にノイズを走らせ、古いテレビに映る画像の様にブレ始めた。
 ヤガランデはジャンプし、空中ダッシュを行い、TFCイレイザーをJ/Sに向けて、照射。
 准尉は冷静にその光の嵐の中をくぐり抜け、着地するヤガランデに左から右に斬りかかるが、その途中でブリッツ・セイバーは抜けなくなる。
 VRの姿を纏った破壊神は勝利を確信し、右腕を鉄槌の如く、敵対する異教徒に振り下ろそうとした。
「化け物、くたばれぇぇぇ!」
ヨッシーは叫びながら、咄嗟にスライプナーを無理やり、ラジカル・ザッパーに変形させて、残っていた全てのエネルギーを放出する。
 光はJ/Sとヤガランデを包み、次の瞬間、スライプナーはエネルギーに耐えられずに爆発し、J/Sは赤黒い土の上に投げ出された。
 准尉は急いで、残っているセンサーを最大限に稼働させ、ヤガランデの様子を調べる。
だが、最悪な事に破壊神はまだ動きを止めてはいない。
 ヤガランデはゆっくりと右腕と武器を失ったJ/Sに右腕を向け、標準を定めた。
「嫌だ。こんな所で死にたくない。俺はまだ・・・・ん?」
青年が悔しそうに呟くと同時にヤガランデに変化が起きた。
 ヤガランデは全身を震わせながら、小刻みに甲高い音を発生させ、ゆっくりと実体を喪失していく。
そして、最後には巨大なクリスタルとその周囲に小さなクリスタルを発生させて、消滅して逝った。
 多くのVRを死神へと引き渡してきた遂に破壊神はヨッシー准尉の手に因って、自らが死神の手引きする闇へと引きずり降ろされたのだ。
「か・・勝った」
准尉は戦場の鉄則である立ち上がる事も忘れて、J/Sのコクピットの中で安堵の言葉を漏らした。

 空から、その戦闘を途中から見届けて居た背中から白い羽を生やしたVRは杖を握り締めながら、呟いた。
「ヨッシーさん。凄いじゃないですか。殆ど貴方が倒したようなものです。お陰で無駄足になりました。でも、貴方はわたしの希望。貴方には強くなってもらわなければなりません。身勝手で我がままな願いですが」
彼女は真摯な表情でもう一つの戦場に視線を向けた。

 その頃、ユウヒ大尉の慰撫+は優雅とさえ称賛できる動きでヤガランデの攻撃を回避しつつ、慰撫の竜を召還し、体当たりを仕掛けさせる。
 ヤガランデの動きはユウヒ大尉の慰撫+に恐怖すら覚えた様に感じさせた。
普通はVRパイロットが恐怖を覚えるのだが、その最悪最強の破壊神にすら、この小さな上司は恐怖を与えるのだ。
 破壊神がその感覚に捕らわれ、しゃがんでTFCイレイザーを撃とうとした時に勝敗はついた。
後ろに回り込んでいたライデンD型の巨大な光が真面にヤガランデを貫く。
 破壊神は一瞬にして、死神の腕に捕縛され、実体を失い、クリスタルと化し、虚空へと消えていった。
何とも言えない表情でそれを見送る大尉に声が掛けられた。
「助かったよ。サイナ大尉。迷惑次いでに一つ質問して良いか? 兄さんて、どういう意味だ?」
慰撫+はこの辺りの戦闘が終了した事を確認しながら、ライデンを見つめながら、言葉を返した。
「シルフェリス准尉。後、話す。今、救助が先」
「ああ。オイ。お前達、動けるか?」
その言葉に状況を思い出したシルフェリス准尉は自分の部下に確認の声を掛けた。
「自分は自走が可能です」
「すいません。部隊長。私は無理です」
「やれやれ。また始末書ものだな」
シルフェリス准尉は生真面目な上司の説教が待ち受けている事を考えて、苦笑しながら肩を竦めた。
「大丈夫か?」
「自分はVR共に無事です、大尉。しかし、こちらは3人死にました。生き残っているのは私だけで有ります」
シュバルツ・シュネーの中で最も若い少年軍曹トールムがモニターごしに敬礼しながら、報告する。
「そうか。思ったより、被害、出てしまったな。テムジンは輸送班に回収させよう。クリス少尉。聞こえるか?」
ユウヒ大尉は僅かに暗い表情になった後、b班に呼びかける。
『ヨッシー・アーキーです。聞こえますか? 大尉』
だが、返答を返したのはヨッシー准尉だった。慰撫+の通信モニターにはノイズしか映っていない。
「聞こえるぞ。ヤガランデ、撃破出来たのか?」
『はい、何とか。回収をお願いします』
「分かった。先、回収させる」
部下の苦労と状況を声の調子から、察した大尉は言葉を掛けた。
「有り難う御座います」
其処で准尉の声は途切れた。
「C班、聞こえたか。b班、回収、最優先する」
『了解』
部下にそう告げ、ユウヒ大尉は通信を切った。

 まだ、立ち上がる事が出来なかったヨッシー准尉のJ/Sの視野に白い羽を生やしたVRが現れた。それは優雅に白い羽を羽ばたかせながら、舞い降りた。
 勿論、彼には誰なのか、一瞬で判別が出来た。
「エンちゃんか。君はいつも俺が倒れてる時に来るね」
「わたしは貴方の寝顔が好きなんですよ」
苦笑する青年にエンジェランは冗談で返し、J/Sの残った左手に向けて、左手を差し出した。
 J/Sはその手を借りて、立ち上がる。
「あ! 和んでる場合じゃなかった。皆を助けないと。エンちゃんが調べてくれない。先の戦闘ダメージでセンサーが駄目なんだ」
ヨッシー准尉はコクピットのハッチを開け放ち、自分の視野で状況を確認する。
 唯一、姿が確認出来たコリン曹長のJ/fは完全にコクピット周辺が押し潰され、破壊されていた。これでは回収しても、使い物にはならないだろう。
「分かりました。其処の雪の中にテムジンのJ/cが、後ろのJ/S2は完全に大破してます」
彼女の言葉にヨッシーは黙って、クリス少尉のJ/cを静脈の血の様に赤黒い雪から掘り出そうとする。
エンジェランは周囲を警戒しながら、ただその様子を見つめて居た。
 すぐにJ/cを発見し、彼はテムジンを降り、クリス機のハッチを開放した。
其処には苦しそうに唸るクリス少尉が居た。
「クリス少尉。起きて下さい。クリス少尉」
ヨッシーはコクピット中に入り、彼の肩を揺さぶる。その顔色は蒼白だ。
准尉はクリス少尉が自分の知らない病人に見え、一瞬、驚く。
「アーキー准尉か。撃破したのか? ヤガランデを」
長い間、床に伏せて居た病人と見間違えられたクリスは悪夢にうなされる様に呟く。
「はい。b班は俺とクリス少尉以外は恐らく、戦死しました」
部下の義務として、准尉は上司に自分の知り得る事を伝えた。
「そうか。俺は落ちた衝撃で肋骨をやっちまった。医療班を呼んでくれ」
「了解です」
准尉はJ/cのコクピットから出てエンジェランを見上げた。
「ヨッシーさん、大丈夫です。今、来ました。お疲れさまです」
エンジェランは膝を付いて、優しく包み込む様に言葉を送る。
 彼はその言葉を聞き、瞳から涙が零れ落ちた。それを拒むように上空に現れたメルデンを見上げながら・・・
その涙は死んでしまった仲間達に対するモノなのだろうか、それとも、この心優しき少女の言葉に対する反応だろうか。
 エンジェランは自らの体をVR状態から標準状態に戻して、右手の親指でヨッシー准尉の溢れる涙を拭い、そして、両腕で慈しむ様に抱き締め、細く白い指先で彼の黒髪を優しく撫ぜた。
少女は嗚咽を漏らすヨッシーの鼻筋を自分の首筋に押し付けて、彼の顔を隠す。
 戦闘で傷付き、右前腕部を失ったJ/Sは二人のそんな遣り取りをただ見つめて居た。


 このヤガランデとの戦闘で甚大な被害を受けたシュバルツ・シュネーは極冠を訪れた当初の目的を果たす事無く、アリア准将の命令を受け、衛星軌道上に待機するフレッシュ・リフォーの司令部代行艦隊まで撤退する事となった。
 彼らの様にテムジンを配備する部隊の苦悩は第三世代テムジン747型の登場まで続くいや、747型が配備されてからが彼らが真の絶望を味わうのであった。


【黒い雪】了


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