【黒い雪】第三話 赤い雪
ヨッシー准尉は自機であるテムジンJ/Sを駆り、20体程のVRの先頭に立ち、小高い丘が点在する盆地を走っていた。この数は偵察としては大人数だ。
彼らの隊列はジグザク、カシオペア座のように縦に並んでいる。だがその間は微妙に間隔が空いていた。
これはライデンのレーザーなどの直線攻撃を不意に食らわないようにする為である。
最後尾には大尉のエンジェラン「慰撫」+が追随していた。
天候はかなり不安定で地面にはVRの行進で舞い上がった砂や泥で所々、黒く汚れて舞い上がった雪とも砂とも言えない粉塵が辺りを覆っている。それが視界を著しく妨げる。
「ヨッシー准尉。おかしな様子は在るか?」
「いえ。今のところは」
J/cを駆り、中央を固めるクリス少尉の言葉に出来る限りのセンサー稼働させて、准尉は答えた。
「想像以上、苛酷な戦線だな。地球では考えられなかった」
誰の言葉ともつかない声を青年はただ黙って、白い雪を見つめる。
だが、ヨッシーはその光景に一抹の違和感を感じ、言うより早く、行動して居た。
彼のJ/Sはスラッシュ・ボムを白すぎる大地に向かって、放つ。
ヨッシー准尉の行動に隊全体が気づき、一瞬にして戦闘体勢を整える。
この辺りは見世物優先のパフォーマンスチームでも精鋭としての技量が現れていた。
スラッシュ・ボムの爆風と炎に焼かれ、VRが不意に姿を現す。
「チィ! アファームドかよ」
誰かが叫ぶ。だが、准尉は一気に間合いを詰め、ボムの燃料で燃え上がるVRに横凪ぎにブリッツ・セイバーで斬りかかる。
だが、炎を纏ったアファームドは左腕のダイナミック・トンファーでその一撃を防ぎ、片方のトンファーでJ/Sを破壊しようとする。
即座に青年はJ/Sの機体ごと、体当たりし、アファームドを突き飛ばす。
敵機が蹌踉けた隙にブリッツ・セイバーをずらし、左腕ごとアファームドの胴を真っ二つに切り裂き、擱座させた。
それと同時にスラッシュ・ボムを真横に向け、射出する。
雪に埋もれて隠れていた敵VRは慌てて、そのボムを横ダッシュで回避した。
同時に雪の中に隠れていたアファームドやVOXが一斉に雪の粉塵を舞い上げて、一気に襲いかかる。その数はシュバルツ・シュネーの倍は居るだろう。
当然、VOX系列やアファームドの支援機型が丘に陣取る。
それを見たユウヒ大尉はクスッと笑い、口の端を吊り上げた。彼女の予想した通りの布陣だったようだ。
「待ち伏せか」
ヨッシー准尉は唇を強く噛む。彼のテムジンは丘の上からミサイルを放とうとするボックスのダンにスライプナーをラジカル・ザッパーに変形させ、青い光を放つ。
発射体勢に入っていたダンは回避出来ずに自分の右側に直撃し、右腕と胴体の右半分を消失し、擱座するが、発射体勢に有ったミサイルは隊列の中央に向けて、走った。
だが、その結末を見る暇は准尉には与えられない。アファームドがミサイルを発射し、彼に襲いかかる。
ヨッシー准尉のJ/Sは冷静に右に走り、ミサイルの第一陣をやり過ごし、更に第二陣の援護を受け、襲いかかるアファームドのC型に対抗する為、緊急停止し、屈んでライフルを発砲。
C型は小刻みに動き、被弾しながらもそのバイザー下の目から、狂気と思わせる意志をセンサーで睨み返す。
同時に動いたJ/Sに右から被弾し、僅かに蹌踉めく。その攻撃は横から来たアファームドのG型のフィンガー・ブラスターだ。
その一瞬の差が最悪の事態を呼ぶ。正面のC型は既に目の前、トンファーを繰り出す体勢に入り、音速の一撃を振り下ろす。
だが、ヨッシー准尉のテムジンはそれをジャンプで避け、C型の肩に着地し、スライプナーをブリッツ・セイバーに変化させ、C型の顔面から突き刺し、それは股間へ達し、
アファームドは卸された魚のように2つになって地面に倒れる。
G型は着地する准尉の機体に向かって、拳を殴り掛かった。先程の芸当で避けられるタイミングでは無い。
しかし、G型は突如、胸から刃を出し、動きを停止し、赤く汚れた雪に身を静める。
青年がレーダーを一瞬見て、その理由は判明した。味方の反応が在ったからだ。
だが、その姿は微かにテムジンと思しき容姿を有して居たが、最悪の視界とステルスのせいでセンサーではよく確認出来ない。
ヨッシー准尉はそれを一瞬にして心の奥にしまい、次なる敵へ向かう。
だが、既に半分、敵の部隊は半分近くが味方のVRに倒されている。
「ステルスの敵が居るぞ!」
敵の誰かが開放回線で叫ぶ。恐らく、仲間への警告とステルスで姿を消しているVRに対する動揺を誘うつもりなのだろうか?
ヨッシーは気にせず、味方のJ+が牽制するVOXのエイジに対して、逃げ道を塞ぐようにスラッシュ・ボムを発射する。
それに気づいたエイジは追尾するそれをVOX系列の中で最速を足で回避し、向かい来るJ+の突進しながら放つライフルをジャンプで躱した。
エイジはガン・システムで准尉のJ/Sを牽制しながら、電磁状のボムでJ+の動きを止め、斬りかかる。
ヨッシー准尉はそれを阻止しようとするが、後ろから飛来したボックス・ランチャーの火柱の爆風を真面に受け、動きを封じられた。直撃では無いので、大したダメージでは無いが、一瞬、動きが止まった。
これでは僚機を助ける事が出来ない。駄目押しに反転した彼のテムジンの胸元に向かって、ハンマーが飛来する。
彼はブリッツ・セイバーから、三日月型の刃を放ち、ハンマーを弾き返し、収まった爆風の後、すぐに自機でくぐり抜け、敵機が視野に入ったと同時にスラッシュ・ボムを発射し、プレッシャーをかけた。
ジョーは追尾性の在るスラッシュ・ボムを何とか避けようとヨッシー准尉機の左を擦り抜けようとするが低い機動性から急激なU字を描く、ボムを回避出来ず、背中に直撃されて、動きを停滞させる。
ヨッシーはJ/Sを緊急停止させ、敵機に踏み込み、リレーのゴールテープに迎え入れる様にソードを振り、相手の首元を切り裂き、擱座に追い込む。
准尉は急いで僚機のJ+の方をセンサーで調べ、モニターに出す。
其処にはユウヒ大尉のエンジェラン「慰撫」+が救援に駆けつけ、反対にエイジを追い詰め、撃破していた。
「准尉。こちらは大丈夫。‥‥‥逃げた様です」
ヨッシー准尉はセンサーを見て、それを確かめた。既に残った敵VRは引き上げ始めている。目の前の司令官は追撃しないと既に決めていたようだ。
「大尉。あの‥」
「説明、後で」
青年の言葉を遮り、彼女は静かに答えた。
「クリス少尉。隊列、整えて、先に進みましょう」
「はっ。了解で在ります」
クリスの言葉と共にヨッシー准尉のテムジンJ/Sも隊列の先頭に戻って行った。
シュバルツ・シュネーは小さな工場施設跡に陣取り、各々のテムジンのメンテナンスや修理を行っていた。
その地下、休憩室と思われる16畳程の部屋にユウヒ大尉とヨッシー准尉達の姿が在った。随分古い型の空調設備を使い、暖をとっている。
「寒いな。どうにかならねぇのか」
悪態をつきながら、アジア系で不精髭を生やす三十路を過ぎた男が震えながら、床を蹴りつける。この隊ではまだ新入りと言えるウォン軍曹だ。
ヨッシー准尉はそれを横目で見ながら、自分の正面で粗末なソファーに横たわる大尉に対して、口を開いた。
「ユウヒ大尉。先程のテムジンはいったい?」
「テムジンJ/f。奇襲用、作り出されたテムジン。接近戦、得意とし、ホワイトアウトや砂塵の中、戦う事、想定されたVR」
青年の答えに大尉は横になったまま、答える。
ヨッシー准尉は笑い声を漏らしながら、肩を竦めた。
彼女は最初から、J/fを隊列の透き間などに隠して潜ませ、足音や足跡やセンサーの反応を消し、敵の目を欺き、奇襲した敵の部隊を逆に嵌め、用意周到な心理戦へと誘い込んだのだ。
その結果、敵の大隊は有利と思って仕掛けた戦闘に思わぬ、痛手を負った。
最初から、味方も敵も彼女の計算通りに動いていたのだ。
これ程、見事な手腕では笑うしか無かった。
「何を笑ってるんだ? 日本人?」
ウォン軍曹はやや冷ややかな視線を投げかけた。
「別に、ただの思い出し笑いですよ。それに上官に対する口の聞き方がなって無い」
青年は肩を竦め、倉庫に保管して在った毛布で身を包ませ、目を瞑る。
「おい。日本人、よこせ」
「倉庫に在るから、自分で取ってきなさい」
この言葉は准尉の言葉では無い。この工場跡に住み着く女性が冷たくいなした。
この女性は火星に僅かに残った人類の末裔らしく、変わり者でここに住んで居ると本人はシュバルツ・シュネーを招き入れた時に説明した。
恐らく、限定戦争に非合法で関わる業者だろう。
ヨッシーはその遣り取りを聞きながらも関わる事はしなかった。休息は生き残るのに必要なのだから。エンジェランとの約束を守る為には‥‥‥
[続く]
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